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覚悟の夜 06
「そんな顔して見つめちゃだめだよ。勘違いしちゃうでしょう?」
「へ? あっ、ご、ごめん……シモがあんまりきれいだからつい……」
真っ赤になって俯くと、はあ、と芝居がかったため息が聞こえ、大げさに肩をすくめてから彼は続けた。
「これだからエイノは……。君ならレオニードさんも気に入ると思う。彼はステータスに目がくらんで求愛してくるオメガにうんざりしてるって、フォードルから聞いたことがあるんだ。その点エイノなら慎ましやかだしね」
得意げに言ってシモはパチンとウィンクをする。
けれどそれを聞いたエイノは青ざめた。
たしかに彼のステータスなどどうでもいい。
しかし、今日のエイノの目的はポケットに忍ばせたハルを使って、ひと晩だけでも彼の体を手に入れること。
彼から見れば『うんざり』の範疇 を飛び越えて、迷惑極まりない求愛 行為である。
今さらながら良心が痛みはじめた。
エイノはすでに罪を犯してしまった。
どんなに罪悪感が押し寄せようとももう手遅れだ。
このまま何事もなく一日を終え、当たり障りのない会話をして忘れ去られるくらいなら、今夜だけでも深く繋がりたい。
そして夜が明けたら、もう二度と彼にまりわりつかないと決意する。
エイノがこれほど彼を恋い慕うようになったのは、たまたまエイノの職場に彼が訪れたのがきっかけだった。
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