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恋の嵐 02
近年ごくわずかにだが、人の手が加わった混血種が存在する。
彼は獅子と虎を親に持つ、珍しいホワイトライガーだ。
エイノはしばらくその獣人を見つめたまま立ち尽くしていた。
それが不躾な態度だなどと考える余裕もない。
心の中で吹き荒れる感情がなんなのか、認識する間もなくあふれてくる。
まるで嵐だ。
エイノがようやく息を吐き出したとき、見知らぬ獣人は通話を終え、電話を胸ポケットへと押し込んだ。
なんてことのない仕草まで洗練されている。
「すまない。少しだけ場所を借りた」
「あ、い、いえ……! お気になさらず……」
にこりともせずそれだけ言って立ち上がった彼は、さっとテラス席に背を向ける。
慌てて返事をしたが、きっと聞こえてはいないだろう。
「窓拭き、しないと……」
いまだ夢見心地のまま、彼が座っていた方向へと視線を戻したエイノは、テーブルの足下に何かが落ちているのを発見した。
(もしかして落とし物……?)
小走りにかけ寄って拾い上げると、それはピカピカに輝く万年筆で、あの獣人に似合いのノーブルな品だった。
彼のものに違いないと思った瞬間、エイノは向きを変え、地面を蹴る。
背中が見える距離にいてくれたのは幸いだった。
「あの! 待ってください!」
走りながら呼んではみたが、彼はなかなか気づかない。
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