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恋の嵐 03

 中央広場にさしかかり、少し距離が縮まったところでもう一度「すみません!」と声を張り上げると、彼の背中がピクリと反応し、ようやく足を止めてこちらを振り返った。 (よかった……! 止まってくれた)  安堵して噴水の前を通りすぎようとした刹那、目の前をコロコロとボールが横切り、小さな子供が飛び出してきた。 「へ? わっ! ……っと!」  何メートルも走ってきたエイノの勢いはそう簡単には止まらない。 ぶつかって幼い子を怪我させるわけにはいかないと、とっさに身体をひねったら噴水の淵に蹴つまづいた。 「うわあっ!」  バシャンと派手に水しぶきがあがる。 広場がわっと騒がしくなり、ボールを捕まえた子供は目を丸くしてきゃっきゃとはしゃいでいる。 エイノは噴水の中に飛び込んでしまったせいで全身水浸しだ。  膝を打ち付けた痛みに顔をしかめながらも、ハッと血相を変えて身を起こす。 すぐそばにあの獣人が驚いた表情で立っていた。 (うわ、うわ、どうしよう! 大切なもの濡らしちゃった……っ!)  真っ青な顔で噴水からはい出し、彼の前にかけ寄る。 ずぶ濡れのみっともない姿に羞恥を覚えたが、そんなことにかまっている場合ではない。 「あの、これはあなたのものでしょうか? 先ほどテラス席で見つけて……」  動揺をなんとか押し隠して尋ねると、彼は一瞬目を見開いて「ああ、俺のものだ」と答えてくれた。 本来ならこれで一件落着のはずが、エイノの不手際のせいで万年筆はひどいありさまだ。 このまま返すわけにもいかず、深々と頭を下げた。

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