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恋の嵐 05

 エイノは耳まで真っ赤に染めながら蚊の鳴くような声で礼を言う。 「……ありがとうございます。そんな風に言ってもらえて……嬉しいです」  感謝をするならもっと堂々とするべきだともうひとりの自分が叱咤した。 勇気を振りしぼって赤らんだ顔を上げ、ぎこちない笑顔で笑いかける。 彼は一瞬だけ目を見張ると、双眸を和らげた。 「……っ」  氷雪を思わせる白い肌に凜々しい容貌を持つ彼は、どこか冷たそうな印象だったが、春の雪解けのような暖かさがそこにはあった。  ――なんて美しいんだろう。それに、なんて優しい言葉を持つ人だろう。  獣人は尊大な者や粗野な者が多いと聞く。彼のように希少中の希少種なら余計にそうなりそうなものだ。  隙のない口調からは想像もつかないほど温かな気遣いを見せてくれた獣人に、エイノは心を打ち抜かれてしまった。  結局理由をつけて彼の提案を丁重にお断りし、万年筆は買い換えられることなく持ち主の元へ戻っていった。  数日後、驚くことに綺麗なカードのお礼状が店の郵便物に混じっていた。  そこにはあの万年筆が彼の祖父からの形見で大切なものだということが綴られ、今まで通り問題なく使えるから気にしないでほしいということと、エイノへの感謝の言葉が添えられていた。  カードはエイノの宝物になり、今もアパートの一室に飾ってある。  彼にまた会えることを夢見ていたが、それからすぐ美術館の改装が始まり、レストランカフェは営業休止となったのだ。 おかげで職を変えざるをえず、エイノは再会のチャンスを失ってしまった。  けれど彼はめずらしいアルビノの獣人で、上流階級の人間だ。 同じような世界で生きているシモに聞けば、きっと彼を知っているに違いない。  エイノの予感は的中した。  相談に乗ってくれたシモは「ああ、きっとレオニードさんのことだね」とすぐに当たりをつけ、接触できる機会がないか探ってくれた。 そしてようやく訪れたチャンスが、月に一度開かれるアルファとオメガのマッチングパーティーだったのだ。

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