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甘美な企み 02

「急にヒートが来るなんて……俺の本能がレオを求めてるからかな」  肩口に顔を埋めて「薬飲みたくない」と縋りつくようにしなだれかかると、耳朶に彼の吐息が触れた。 「随分余裕があるな。つらいんじゃないのか」 「つらいよ。だからお願い、あなたが楽にして……」  思ったより冷静なレオニードを誘惑するように体を押しつけた直後、彼の腕にすくい上げられ、あっという間にお姫様だっこをされていた。 「そんなに抑制剤を飲むのが嫌なら移動するしかないな。このままじゃいつ事故が起こるかわからない」 「え、あ、あの……っ」  言外に『迷惑だ』と言われた気がして、すうっと肝が冷えた。 たしかにエイノにはわからなくとも、アルファなら誰彼構わず誘い出す香りを発しているのは事実だ。 公害扱いされたって文句は言えない。 「ど、どこに……」 「ん? 何を怯えてる。俺が怖いのか」 「ほ、他の人じゃなくて、レオがいいんだ」  誰かに引き渡されたくない一心で彼の腕をぎゅっとにぎると、小さく息を呑む気配がして、ゆっくりとこめかみに唇が降ってきた。 「ああ、誰かにおまえを渡すつもりはない。安全なところに移動しよう」  レオニードは会場には引き返さず、テラスを突っ切って通りに面した道へと足を向けた。 まだハルの効き目が薄いのか、平常心に見えるのが気がかりだった。

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