比呂の住むアパートは結構治安が悪いと有名な地域にあった。建物は外見から古そうだし、郵便受けはなんか荒れてる。壁も薄いらしく、俺たちがいる部屋以外からの物音も聞こえてくる。 こんなところに住んでいてアウトローな方々に絡まれないのかな。俺、逃げられないよ。ボコボコにされるよ。きっと。いや、家の中までは来ないか……。 「なんか怯えてるみたいだけど、安心してよ。襲わないから」 ビクビクしてしまっている俺を見て勘違いをした比呂は両手を上げて呑気にそんなことを言ってくる。 それは考えてなかった。俺よりひょろひょろな比呂に力で負けるわけないからな。 「そんな心配はしてないけどさ……。ここにいつから住んでんの？」 「高校卒業して働き出してからだから一年ちょっとだね」 「ここって大丈夫なのか？身の安全とかでさ」 「そうだねえ。まあ、身の安全よりも生活できるかどうかだから。確かに古いし、周りの部屋の生活音はだだ漏れだけど、安さには変えられない」 社会人だとそんな感じの考え方になるのかな。親のすねかじり大学生な俺には分からん考え方だ。 まあ社会人になって自分で家賃を払うことになっても安全や住みやすさの方を取るだろうな。俺ならこの環境に耐えきれなくて一週間も住めないと思うし。って俺は繊細な女子か。 「ふーん。そうなんだ」 比呂に質問攻めをしていると漸く落ち着いてきて、比呂の部屋に目を向けられた。そして一つ疑問が浮かぶ。 「お前、本好きじゃなかったか？」 「あーうん。全部小説も漫画も捨てられちゃった。お金がないから買い直すことも出来なくて、見ての通り質素な部屋になってるんだ」 中学で比呂と知り合って、何度か部屋に行ったことあるけど、比呂の部屋にはたくさんの小説や漫画があった記憶がある。 中学生だから買ってくれるのは親だろうから、少なくとも容認して買ってくれているはず。だから勝手に捨てられることはないと思うんだけど……そうじゃないのか？ 「どうして捨てられた？」 「それはこれから話すよ」 お茶を俺に出すと、比呂は隣に座って、ぽつりぽつりと語り出した。