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第11話 未来設計

「目立ちたくなかったんで。やっぱり知られたくなかったですね」 と、僕。 「みんな目立ちたくてしょうがないのに。変わった親衛隊員だね、きみは」 「誉め言葉だと受け止めますよ?」 僕のセリフに佐々木さんはきれいな顔で、うっとりするような笑顔を見せた。 「間宮さんは親衛隊より、風紀向きだね~」 「風紀に向き不向きなんてあるんですか?」 「あるよ。ぼくは不向きなんだけど、中等部から風紀なんだよね」 「生徒会っぽいですから」 「よく言われる」 クスクス笑う佐々木さんはきれいで、今から重苦しい風紀委員室に出向いている雰囲気じゃなかった。 初めて訪室した風紀委員室は、扉を開けると大空間に、社長室にあるような立派な事務机がいくつも並んでいた。 その部屋の両脇に何個ものドアがあった。 そのドアの一つに僕は案内された。 よく刑事ドラマにあるような小さな机はなく、上品なソファーセットが用意されていた。 二人掛けのクリーム色のソファーが二つに、一人掛けのソファーが一つ。 二人掛けソファーに腰をかけて、聞き取り調査をされた。 僕の眼前には佐々木さん。 一人掛けには同級生の龍ヶ崎だ。 美形二人に囲まれてなんか息苦しく感じるのは、モブ気質がもたらす自然の摂理だからしょうがない。 ……風紀委員て、美形が多すぎる。 選考基準は顔なのか? 普通の平凡顔はいないの? 地味な人は風紀委員にはなれないの? 佐々木さんに質問されて、答えていく僕の言葉を書き留めていくのが龍ヶ崎。 聞き取りが終わった僕に、龍ヶ崎がクリップボードに挟んだ紙を差し出してきた。 被害届。 正面にいる佐々木さんが、 「それ、記入したら帰れるからね」 と、渡してきたのが万年筆。 ずっしりと重みのあるそれはネーム入りだ。 オーダーメイドの万年筆。 僕はシャーペンとボールペンしか使ったことがない。 初書きが強姦未遂の被害届。 なんかなぁ。 もっとこう、なんか楽しいこと書くのに使いたかったな。 ローテーブルの上には、僕が入室してすぐに出されたコーヒー。 一口も飲んでいなかった。 だって龍ヶ崎が持ってきたお茶だよ。 飲めないよ。 龍ヶ崎がいれたのか? どんな味かするのか興味はあるけど、それを共有する人がいない。 友達はいるけど、今回のことは言いたくないし。 ばれるまで、黙っておきたい。 騒がれるようなことを、あえて自分から流布(るふ)したりはしない。 僕は穏やかに平安に学園生活を送っていきたいのだ。 内部進学して、大学在学中に弁護士資格を所得し、院まで勉強させてもらって、卒業したらそこそこの弁護士事務所で経験を積んでから、両親の事務所に入る予定だ。 埋もれて誰にも気にとめられないモブだけど、人生設計はたてているんだよ。 堅実な未来設計の為にも、目立った行動は慎んで過ごしていくのだ。 この風紀委員室の取調室で、目が痛くなるような美人に近い距離で見られ、横からは威圧感たっぷりのオーラを感じながら、僕は自分のビジョンを再認識した。

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