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第12話 風紀規約は基本方針はあれど、どうやら忖度もありそうだ
被害届に、僕は氏名と学年と寮の部屋番号日付と書き込んでいった。
万年筆を初めて使ったけど、滑らかな書き心地。
いいものは、やっぱり使いやすいんだなぁ。
父さんに、誕生日プレゼントにねだったら買ってくれるかな?
「時間?」
顔をあげたら、
「被害にあった時間。だいだいでよいよ」
と、佐々木さん。
30分位前かな?
部屋の壁に掛けられている時計で時間を確認して、その30分前の時間を記入した。
次いで、場所、加害者名。
「被害状況って、どう書くんですか?」
と、僕。
「簡単に箇条書きで、順序だてて書いてくれればよいから」
と、佐々木さん。
「聞き取りを書き取ってたのに、必要なんですか?」
「形式上被害者からの直筆の書類がいるから。面倒でも書いてね、間宮さん。精神的苦痛等で本人が書けない場合は、委任状を提出すれば代筆が認められるけど、きみは全然平気でしょ」
と、僕の精神的ダメージを考慮してくれない佐々木さんだ。
「風紀に関わると、めんどくさいんですね」
「実行力行使するから、記録を残さなくちゃならないんで。人を処分する為には、手続きを踏まなくちゃならないから、公式文書が必要になるんだよねぇ」
と、佐々木さん。
「……処分て。風紀が決めるんですか?」
「加害者の罪状を数値化して、段階式に妥当な処分を決定するのが基本なんだけど。基準を満たして諸々 を考察して、加害者の将来も考慮した結論を下すのが風紀の仕事。それを承認するのが生徒会で、最終決断の裁可は理事長か副理事長もしくは理事長代理」
と、佐々木さん。
「基本ていうことは、そうじゃないこともあるんですか」
「間宮さん、頭よいのもよくない時があるよ? 覚えておいてね」
と、佐々木さん。
「続き書いて」
と、龍ヶ崎。
声の主を見たら、無表情で僕を見ていた。
でも、よく見たら面倒くさそうな目をしていた。
佐々木さんと違って、表情筋が動かないからわかりづらいけど。
『さっさと被害届を書いて帰れ』
と、冷たい目が語っていた。
後は質問もせずに会話は一切なし。
高速で文字を書いていった。
書き終えたら、右手首が痛かったよ。
腱鞘炎 になりそう。
「書いたよ」
と、龍ヶ崎にクリップボードを渡した。
「ありがとうございました」
と、お借りした万年筆を丁重に佐々木さんにお返しした。
「汚い」
と、被害届を確認していた龍ヶ崎がつぶやいた。
「待て」
と、龍ヶ崎が立ち上がろうとした僕をとどめた。
「何?」
「訂正印持ってる?」
「筆記用具持ってないのに、あるわけないじゃない」
バカなの?
という言葉は理性で押さえ込んだ。
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