13 / 29

第12話 風紀規約は基本方針はあれど、どうやら忖度もありそうだ

被害届に、僕は氏名と学年と寮の部屋番号日付と書き込んでいった。 万年筆を初めて使ったけど、滑らかな書き心地。 いいものは、やっぱり使いやすいんだなぁ。 父さんに、誕生日プレゼントにねだったら買ってくれるかな? 「時間?」 顔をあげたら、 「被害にあった時間。だいだいでよいよ」 と、佐々木さん。 30分位前かな? 部屋の壁に掛けられている時計で時間を確認して、その30分前の時間を記入した。 次いで、場所、加害者名。 「被害状況って、どう書くんですか?」 と、僕。 「簡単に箇条書きで、順序だてて書いてくれればよいから」 と、佐々木さん。 「聞き取りを書き取ってたのに、必要なんですか?」 「形式上被害者からの直筆の書類がいるから。面倒でも書いてね、間宮さん。精神的苦痛等で本人が書けない場合は、委任状を提出すれば代筆が認められるけど、きみは全然平気でしょ」 と、僕の精神的ダメージを考慮してくれない佐々木さんだ。 「風紀に関わると、めんどくさいんですね」 「実行力行使するから、記録を残さなくちゃならないんで。人を処分する為には、手続きを踏まなくちゃならないから、公式文書が必要になるんだよねぇ」 と、佐々木さん。 「……処分て。風紀が決めるんですか?」 「加害者の罪状を数値化して、段階式に妥当な処分を決定するのが基本なんだけど。基準を満たして諸々(もろもろ)を考察して、加害者の将来も考慮した結論を下すのが風紀の仕事。それを承認するのが生徒会で、最終決断の裁可は理事長か副理事長もしくは理事長代理」 と、佐々木さん。 「基本ていうことは、そうじゃないこともあるんですか」 「間宮さん、頭よいのもよくない時があるよ? 覚えておいてね」  と、佐々木さん。 「続き書いて」 と、龍ヶ崎。 声の主を見たら、無表情で僕を見ていた。 でも、よく見たら面倒くさそうな目をしていた。 佐々木さんと違って、表情筋が動かないからわかりづらいけど。 『さっさと被害届を書いて帰れ』 と、冷たい目が語っていた。 後は質問もせずに会話は一切なし。 高速で文字を書いていった。 書き終えたら、右手首が痛かったよ。 腱鞘炎(けんしょうえん)になりそう。 「書いたよ」 と、龍ヶ崎にクリップボードを渡した。 「ありがとうございました」 と、お借りした万年筆を丁重に佐々木さんにお返しした。 「汚い」 と、被害届を確認していた龍ヶ崎がつぶやいた。 「待て」 と、龍ヶ崎が立ち上がろうとした僕をとどめた。 「何?」 「訂正印持ってる?」 「筆記用具持ってないのに、あるわけないじゃない」 バカなの? という言葉は理性で押さえ込んだ。

ともだちにシェアしよう!