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第14話 龍ヶ崎と二人きり

「ちょっと待ってて。誰かに送らせるから」 と、佐々木さんが部屋を出ていった。 なせか龍ヶ崎は居座ってて。 二人だけの空間には耐え難い空気が漂っているんですけど。 「あんたのどこがよくて、襲ったのか理解出来ないんだけど」 と、龍ヶ崎。 「それはこっちが教えて欲しいわ」 龍ヶ崎の無表情が少し崩れ、すうっと黒い目が一瞬だけ細められた。 「親衛隊語で話さないんだ?」 「龍ヶ崎の親衛隊員じゃないからね」 「それ会長に言ったら、即除隊させられるセリフ」 「そんなちっちゃいことチクるために、龍ヶ崎がわざわざ三浦様に話しかけたりするの?」 龍ヶ崎がくっと喉奥で笑った。 「あんたさぁ、親衛隊なんか辞めて風紀に入れば? その性格じゃあ親衛隊じゃ浮いてんじゃないの?」 「浮いてない。風紀は面倒くさいから、絶対にヤだ」 「親衛隊の方が面倒だろうが」 「モブ親衛隊だから気楽なの」 「モブねぇ」 と、龍ヶ崎が鼻先で笑った。 「埋もれてる人間が襲われるわけないから。ちょっとは自覚もった方がよいよ」 さっきとは違うこと言ってるよ、この人。 無自覚なの? ただのバカなの? 「色気も可愛げもないけど、一部のマニアにはその性格はそそるかもな」 「……容姿じゃなくて、中身で?」 「そ、中身」 さっと、龍ヶ崎から遠ざかった。 じっとりと、眉間に皺がよってしまった。 「そっちが誘っくれても、あんたには食指が動かないな」 ……失礼なヤツだ。 「顔に出てる。ニコニコして人に合わせるのが特技なのに、それがなくなったら益々うもれて、どこにいるのかわかんなくなっちゃうよ?」 …………長文しゃべったのに、ディスられてる。 すぅと、龍ヶ崎の手が眼前に伸びてきて、僕の口元に触れたので、 だあっと、立ち上がった。 「そんなのあったっけ?」 そんなのとは、僕の口元斜め左下にあるホクロ。 普段はコンシーラーで隠してるのだが、汗か舐められてか、カバー力が消えて浮き出てきたんだろう。 「描くのはあるけど、隠すのって珍しいよね」 「親衛隊員にシミ隠しは常識」 「シミじゃなくてホクロなのに、そこじゃなくて」 と、龍ヶ崎が自分の眉間を指差し、 「ここなら、仏像っぽくて、ありがたみあるのにねぇ」 と、龍ヶ崎が小さく笑った。

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