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第22話 南ちゃんは怪力

帰る副隊長を玄関先で見送った。 そして、隊長を見送らなかったことに気づいたわけで。 まぁ、いっか。 隊長とはもう関わらない、と思うし。 タオルで頭を拭きながら、スマホをチェックしたら、南ちゃんから着信がたくさんきていた。 RINEのメッセージもいっぱい。 南ちゃんに電話をかけたら、秒で出た。 …………怖いよ、南ちゃん。 『もしもし、今どこにいるの?』 すごい勢いでしゃべってきた。 「部屋」 『部屋ってどこの?』 「自分の部屋」 『はあ? カバンおきっぱなしでなに勝手に帰ってんのよ? トイレからなかなか戻ってこないからトイレ見に行ったのにいないし』 息継ぎして、南ちゃん。 通話越しに怒っているのが、伝わってくる。 ごめん。 連絡しなくて、ごめんね。 なんか、バタバタしてて、後回しになってしまったよ。 「えぇっと、色々とありまして」 『そこにいて。今からそっち行くから』 と、返事も聞かずに電話を切られた。 置き忘れたカバンを持参して、すぐに訪ねてきた篠塚南(しのづかみなみ)。 僕より背が高くなった南ちゃんは、中等部から学園(ここ)に入ってきて、その頃からの友達だ。 中等部1年の時からずっとクラスメイト。 ふわふわっとした焦げ茶色のくせ毛は自前。 色白で小顔で黒フレームの眼鏡っこ。 女の子みたいなかわいい顔は眼鏡では隠れず。 同級生はもちろん、上級生や下級生から、日々求愛されている美少年だ。 生徒会長の親衛隊員になってからは、アプローチが減って、楽チン、と言っている。 高橋先輩のことを僕が話しているときは、なぜか、南ちゃんの方が泣いていた。 「怖かったよねぇ。気持ち悪かったよねぇ」 と、泣きながら抱きつかれた。 南ちゃんは、見かけからは想像出来ないくらい力があるのだ。 その彼に力強く抱きしめられて、僕の体がぐらぐらと揺れる。 中等部までは、僕の方が背が高かったのに、高等部に入った途端に、ぐんぐんと伸びてしまい、見下ろされるようになった。 僕もまだ成長は止まっていないから、ちびちびと身長は伸びている。 風紀委員の話しになると、不機嫌になって、僕を抱き締める腕に力がこめられた。 「(えい)ちゃんは風紀になんか入ったらダメだよ」 と、南ちゃんがすがりつくように抱きしめてきた。 「入んないよ」 と、僕は南ちゃんの背中を安心させるように、ポンポンと軽く叩いた。 「南ちゃんが風紀を嫌がる理由って?」 南ちゃんが、僕の肩口から顔をあげて見下ろしてきた。 「だって、瑛ちゃんと遊べなくなる」 「なにそれ?」 僕が吹き出したら、 「ぼくは真剣なのにぃ、ひどいよ。風紀なんか束縛がきつくて、一緒にいる時間が少なくなるもん」 「反対する理由って、そこかぁ」 と、僕が笑っていたら、 南ちゃんが僕の口元のほくろをさわってきた。 「ここ、さわられた?」 「う~ん……びっくりしてよく覚えてないんだよねぇ」 と、答えた。 「……高橋、殺す」 と、低い小声が聞こえた。 そんな男らしい声で、そんな物騒なことを言わないで。 ほんと、怖いから。

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