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第4話
――さて。
俺の頭に戻ってきた『記憶』によると。
俺の名前は、エドアス=ヴァールグレーン。
先の戦いで功績をあげて、準男爵の地位を賜った、ギリギリ貴族、だ。
ちなみに、親も祖父も、そんな感じで準男爵を賜っている。一代限りの地位のはずが、俺で三代目だ。
婚約者である、ラバセナ=ギーアスター子爵令息と、結婚すれば、男爵に上がる予定であった。
ところがあれである。
王宮のホールに呼び出されたと思ったら、親友で、婚約者の浮気相手である王太子に、婚約を破棄してくれと申し出られた訳である。
相当ショックだったんだろう。
現実逃避するかのように、俺は、自分に別人の記憶を思い出させた。
いや、あれは、前世の記憶だ。
俺は前世、妹を庇って養父に殺された、十代半ばの少年であった。名前は覚えていない。どころか、妹や養父の顔や、どこの国なのかも覚えていない。
全く慣習の違う国だったことだけはわかるのだが。
そのあと、また、今現在の状況が思い出されて、情報過多にパニックになり、錯乱して気を失い、今に至るというわけだな。
なんというか……俺って、前世も今世も不憫だなぁ。
まぁ、前世ほどじゃないか。あのあと妹が何かの奇跡で救われているといいな。
薄い期待に、諦めを覚えながら、辺りを見回した。
見覚えは……あるな。宿舎の自分の部屋だ。
無垢の木でできた、よく言えば素朴な、飾り気のない内装に、ベッドとクローゼット、小さな椅子と机だけの生活感の薄い部屋。
まぁ、割りと寝に帰ってくるだけだからな。
20歳にもならない男が色気のないことだが、まぁ、大体そんなもんだろ。ぁ、今気がついたが、前世の歳越えてるんだな、俺。おめでとう、俺。喜んでいいのか? コレ。
倒れた俺をだれかが運んでくれたらしい。
同じ隊の誰かかな……。
「……あれ?」
そこで、気がついた。
俺、今世の人間のことも、すごい曖昧じゃね?
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