8 / 25

第8話

翌々日、出勤した時の空気はすごかった。 どちらかと言えば、捨てられた男として蔑まれるのかと思っていたら、実際には、同情と労いの言葉を向けられたのだ。 同情は……まぁ、わかるとして。 この労いは何だろう。 よく頑張っただの、お前は悪くないだの、むしろここまでよく我慢した、だの。 よくわからないので、しっかり聞いてみると、なんと、あの元婚約者と王太子の評判がガタ落ちしていた。 あの、今まで絶賛の嵐だった二人が……。 まぁな。 婚約関係にある人間がいるにも関わらず、不貞の上に、婚約破棄を迫ったんだもんな。 うん、改めて文章にしてみるとヒデェや。 しかも、俺の方は、婚約者を大事に扱っているのをよく見られていたらしく、不当だと憤ってくれる人も多かったらしい。 その上で、俺の状況である。 婚約破棄を迫られた場で、叫び、泣き崩れて気絶。 ……恥ずかしいーーっっ!! ……ええと、まぁ。 その後、ショックで一部記憶喪失と来たもんだ。 うん、同情しかないよな、そんなヤツ。うん。 余談だが、 ラバセナの名前は覚えてるけど、その顔と、王太子の顔と名前を忘れてしまったと明かしたときの、周囲の顔たるや、恐ろしかったぞ。 だけどなんというか、居心地が悪い。 何せ違和感がすごいんだ。 回りは大体知ってるヤツばかりなのに、顔を見ても名前が出てこない。 全く覚えていない訳でもないんだろう。 知っている人かそうでないかは、判断がつくんだ。が、仲が良かったかとか、どれぐらいの距離感だとか……自分がどんなキャラだったかとか、そういうのが全く分からない。 ちょっと明るくなったか? と言われるのが、良いことなのか悪いことなのか。それさえも判断できなくて戸惑う。 こういう時、もしも前世が大人だったらなぁと思う。 ちょっとしたアドバイスだって、貰えただろうに。

ともだちにシェアしよう!