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第9話

俺は、王宮内の巡回を同僚二人と終わらせると、訓練所にやって来た。 俺の班は午前中に巡回任務。午後に訓練だから、来るには早いんだが、どうしても挨拶したい人がいるからな。 ……ああ、いたいた。 「マクマホン団長!」 「ヴァールグレーン。もう体は大丈夫なのか」 団長は、振り上げていた大剣をゆっくり下ろすと、こちらに向いて朗らかに笑った。 「はい。あの時にはきちんとしたお礼も言えず申し訳ありません。本当にありがとうございました」 俺が深々と頭を下げると、団長は肩を持って体を起こしてきた。 「オレは、何も礼を言われるようなことはやっていない。具合の悪そうな団員を運ぶぐらい誰でもやるさ」 顔をあげた俺を見て、団長はフッと微笑んだ。 やっべ。団長ってこんなに、かっこ良かったかな。 思わず弛む頬に、気を入れて引き締めて、俺はもう一度頭を下げた。 今度は起こされず、うんうんと頷いて、団長はまた、大剣の素振りに戻った。 本当は、昼食に誘いたかったんだが、人との距離感が、未だに計れていない俺では失礼なことをしかねない。 唸る大剣の音を聞きながら、その場を立ち去った。 「部隊長、なんか、客が来てましたよ」 食堂で昼食をとったあと、そんな風に話しかけられた。 ん? 「……俺って、部隊長なのか」 「ちょっ! それも忘れてんですか!?」 頭を抱えて蹲る。 「なんか、覚えてることと、忘れてることの区切りが、分からないんだよなぁ」 本当に。 時々、こうやってとんでもなく重要なことも、すっぱり忘れていたりするのだ。 冷や汗をかく俺を、呼びに来てくれた団員が心配してくれる。 「大丈夫すか? もう、わかんないこと忘れてること、迷わずどんどん聞いてくださいよ! みんな、必ず部隊長の力になるっすから」 「ああ、ありがとう」 笑って礼を言う。実際、頼るしかないしな。 でもって早速。 「客って言うのは、誰なんだ?」 「オレは知らない人ですね。文官の服着た、可愛い人でしたよ」 ふむ? 食堂の入り口に向かうと、そこに立っていたのは……。

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