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第10話
「エドアス。体は大丈夫かな? なかなか来れなくて、ごめんなさい」
俺と同じ黒髪を1つに結び、片側に流した可愛い系の少年、のように見える男性が、そこには立っていた。
この人は、顔を見て、なぜかすぐに思い出せた。
「……父さん」
俺の実の父。
アーマリウス=ヴァールグレーン、その人だ。
うちの場合、父の方がこのように、小柄で可憐で、『母』のほうが鍛え上げた肉体と、キリッとした目鼻立ちをしている。背も、『母』のほうが高い。
よく、逆に思われる。軍功で準男爵位を持つと聞けばなおさら。ここまでが定番 だ。
「婚約撤回の手続きをしに来たんだよ。ごめん、父さんの目が曇っていた……」
零れ落ちそうな涙を堪えて、うつむく姿を見れば、誰もが庇護欲に駆られるだろう。
これで、槍の腕は王国随一の文武両道だ、というのだから恐れ入る。本当、今何歳なんだろうこの人。『母』より年上と聞いているんだが。
だから、後ろから見てるヤツ。変な噂撒こうとするんじゃない。
「父さんが悪いんじゃないよ」
「でも……」
すまなさそうな表情をする父さんに、俺は明るく言い放つ。
「俺も気がつかなかったし。……気がついたときも、止めなかったし」
父が、目を見開く。
そうだ。俺は、婚約者の不貞現場を目撃したことがある。
とんでもなくショックで……だけど、相手は王太子で。
だから文句も言えなかった。
本当だったら、俺の身分じゃ、王太子と仲良くなんてできる立場じゃない。
……婚約者をとられたところで、文句を言える立場じゃないんだ。
「だから、父さんが悪いんじゃないよ」
複雑な目をする父に、笑いかける。
父は、そうか、と言って俯いた。
「……私が、ちゃんと地位を受け取っておけば……」
父が何やら呟いた言葉は、聞こえなかった。
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