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第23話
店を出ると、城の宿舎に向けて、二人で歩き始めた。
馬車で来た距離だが、「歩かないか?」と隊長に提案されて、町の中をゆっくりと行く。
城下町の警戒は、解除されて久しい。
あの、捕まえた三人から、重要な証拠の数々の足取りが見つかり、無事に確保できたからだ。
そうか、人物じゃなくて、証拠か。うん、そりゃ徹底的になるはずだ。
ぼんやりと、駆け回る小さな子供と、それを見守る老人の姿を横目に、急ぐこともなく歩く。
のんびりとした、温かい雰囲気が漂う。
店を出てから会話もないのに、ひどく心地よい。
このまま時間が過ぎなければいいのに、なんてことを思う。
ふわふわ、温かい気分で歩いていたら、なぁ、と団長から声がかかった。
「もし……」
声がかかったから、顔を向けたが、そこで言葉が止まってしまう。
なんだろう?
首をかしげると、足も止まってしまった。
団長は、口を手で覆い、戸惑っている。
なにか言いにくいこと、なんだろうか?
ただ、じっと待っていると、意を決したように、動き出した。
「え? 団長?」
両手を、ギュッと包まれた。
そして、
「俺と、結婚してくれないだろうか」
と、一息に言われた。
「え?」
固まる。そして、意識せずに目を見開く。
「違うっ その、婚約を、と言おうとして……」
大鬼 が、顔を真っ赤にしている。
でも、手は離されない。
いや、先に辞令を、いやだが、それも違うような、というごちゃごちゃとした呟きが聞こえた。
でも、手は離されない。
俺の思考も、止まった。
結婚? 婚約? 俺と? あんなのと、婚約破棄騒動があった俺と?
……冗談だろ?
こんな素敵な人が?
止まった思考を、呼び戻したのは、この言葉だった。
「すまない、あなたに惚れてしまったんだ。まずは友人から、でいいから」
俯きがちになっていたんだろう。団長を見ようとしたら、顔が上がった。
その顔は、真剣で、頬が赤らんで……今まで見たことのないぐらい、魅力的だった。
その背景は、町と青空。
爽やかな風が通る。
今まで見たことのないぐらい。
俺の、記憶に残っている団長は、
調査中の真剣な顔。
指揮をする威厳のある姿。
剣を振るう、勇壮な姿。
俺に気を配ってくれる、苦しそうな顔。
気遣う、眉の下がりかた。
俺の記憶喪失を知ったときの、悲壮な顔。
抱き締められた腕の強さ。
ホッとするような、笑みの目尻。
覚えているのは、ここ一ヶ月。一ヶ月で、たった一ヶ月で、こんなにこんなに。
ああ、俺、いつからだろう。
いつから。
いつから?
「団長、俺……」
息を飲む団長に、俺は告げた。
「団長に、ひとめぼれしていたみたいです」
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