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いくつも、いくつも

 ますます強ばる体に手を這わせたまま、返答を待たずに首筋にキスをする。ぴくんと反応するのに気を良くして、舌先を覗かせて、唇と舌で丹念に肌を嬲っていく。首筋から鎖骨へ、そこから反対側の首筋を舐め上げて耳へ。  耳の中に舌をねじ込み軽く吸うと、豪の背が反った。 「っぁ、ん……ッ」  声を堪えているのは気配で伝わっていたけど、抑えきれずに漏れたのは、明らかに欲情した声。 「豪――」  そのまま耳の中に落とし込む。 「欲しい。全部」  心も、体も、全て。  意図せずして籠もってしまう熱に炙られたかのように、びくんと豪が跳ねた。 「りゅ、う」  開いた隙に唇を狙うと、ふいと躱される。むかつく。まだ逃げるのかよ。もう理性なんて手放してしまえばいいのに、潤んだ瞳に責められる。 「まだ、聞いてねえ。どうすんの、彼女」  嫉妬しているなら嬉しいだけなんだけど、人として見下げられているんならちょっと悲しい。  そんなこと出来るはずないって信じたいと思いながらも疑う程度には、俺はこいつに信頼されてない。 「関係なくない? もしもそうだったとして……」  背けられたままの顎に、ちゅっと口付ける。 「何があっても、豪は俺を離さないんだろ。だったら、」  唇の端に吸い付こうとすると、急に顔を戻してこつんと額をぶつけられた。頭突きというには緩く、けれど俺を停止させるには十分だった。 「でも、嫌だ」  ぐうっと絞り出すような声音。呆れてしまうけど、嬉しいのも本音。 「ざっけんなよ。自分がどんだけとっかえひっかえ」 「俺はいいの。気持ちが伴ってないから」  鼻を摘もうと持ち上げた手を取られて、逆にこっちの鼻先を指で弾かれた。 「だけど、琉真は違うだろ」 「……違うとして、だ。そしたら豪はどうすんの。俺がここに来てって言ってるのに、離さないって言いながらやっぱりここには来ない?」  それでいいんだ。それが、当然の結論だろう。それくらいの良識は、豪にだってあるだろ。じゃなければ、こうまで拘ったりしない。 「……嫌だ。出来ない」  今度はぶつけるんじゃなくて、ぐりぐりと額を押しつけて、伏せ気味の瞼の向こうの感情が読めない。 「やだ、りゅう」  時折呼ぶのは、子供の頃からの甘えるときの癖。舌足らずな感じで、伸ばさないで「う」の発音までする癖に、ちょっと呂律が回りきってない。  この呼び方が好きだ。豪だけが呼ぶ、俺の名前。俺が豪汰って呼ばないのと引き替えるように略される。だけど皆に呼ばせている豪の名前とは違って、これは豪だけの特別。それも豪の理性の箍が緩んだときにだけ出るもの。  この時ようやく、腹が据わった気がする。  互いの体の脇で宙ぶらりんだった手を手繰り、指の間に指を通してそれぞれの手を握った。いわゆる恋人繋ぎってやつだ。 「抱かせて」  吐息の届く距離で、もう一度頼んだ。  もしも最後まで俺の納得行くように出来たなら――ちゃんと言おう。豪の勘違いを解いて、それからどうするのかちゃんと考えてくれたら。  そうしたら、今度こそきっと――  ぴくんと跳ねる顎を無視して、静かに唇を重ねる。何度も何度も押し付けるだけのそれに慣れたのか、体が逃げなくなったのを見計らい、そのままベッドに誘った。  このまま、拒まずにいてくれたら。  願いを込めて、また口付ける。啄み続けながらシャツをたくし上げ、指の腹で乳輪を撫でる。円を描くそれに、次第に豪が苦しそうにし、唇が開く。そこへ、俺は侵入した。  啜らず、吸わず、ただ這わせてゆっくりと確かめていく。そうすると豪の方へと液体が溜まっていくから、一方的に飲ませてしまうようになる。  俺の唾液を嚥下する白い喉の動きが艶めかしく、倒錯的で、ますます俺は興奮する。  豪を征服したい。俺だけのものにしたい。俺の豪だって言われても、信じられていないから。だから――  溢れる体液が口の端から顎へ、そして首へと伝う。それを辿るように舌を這わせると、豪は喉を反らせて熱い息を零した。 「豪……俺のだって、証明して」  留守になった唇を割り、人差し指と中指を差し込む。柔らかな舌を挟み込むと、ますます唾液が零れ出てくる。どうにか動かしても口は閉じられない程度に力を入れているから、始めは押し出そうとしていた舌が指に絡みついてきた。喜びに震えが来てしまう。 「んっ、ぅ」  腰の奥を直撃する鼻声を漏れ聞こえさせながら、豪が俺の指をねぶり、吸う。連動して下半身が疼いて、脊髄が痺れるように感じる。  なんだこれ。これが、これこそが俺が求めていたものじゃないのか?  もどかしくて、確信が欲しくて、空いている手のひらと唇と舌で、届く範囲の全ての豪を確かめていく。  耳たぶ、耳の中――豪が上半身で一番嫌がるところ――徹底的に調べて確認すると、面白いくらいに豪の背が反り腰が跳ねた。それに連れて俺の指に歯形が付いてじんじんと痺れに襲われても、手を緩めたりしない。  今日こそ、豪を手に入れる。そうでなければ、きっと豪の方から見捨ててくれるから、それほど徹底的に、豪を俺のものにする。  指で塞がれた口元から、唾液と共にひっきりなしに漏れるのは、初めて聞く嬌声。掠れた高く細い声が、直裁に俺を責め立ててくる。  もっと聞かせてくれ。  顔を寄せて、目尻の涙を舐め取る。それからまた耳の中を丹念に調査しながら手を這わせる。びくびくと跳ね続ける体は、ライオンに引き倒されて地面でのたうつガゼルのように可哀想。  こんな俺を傍に置いときたいだなんて言うから、酷い目に遭うんだ。  次第に弱っていくのが伝わってきて、ようやく俺は耳を解放して、下半身へと体をずらしていく。口の中から抜いた指には赤いものが滲み、豪の唇は艶めかしく光りながら開いたままになっている。  ぐう、と太股を持ち上げると、とっくに取り払われて障害物のなくなった中心を見つめた。勃ち上がった陰茎からは先走りが溢れ、体の官能具合を示している。そこへ触れる前に、白くて柔らかな部分へと印を刻みつけた。いくつも、いくつも。  俺の、俺だけのしるしを。  他の男が見たらどん引きするくらい執拗に、けれどしるしだと判る程度には間隔を置いて。

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