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今夜こそは

「りゅう、ま……ぁ」  すっかり力の抜けた腿が震えて、それに連動して透明な滴が落ちる。天を向いたまま快楽を示しているてっぺんに、そうっと口付けた。  辿々しく俺の名を呼び続ける声が甘い。唇を濡らす豪も甘い。差し出した舌先でゆっくりと舐めると、滑らかでやわな窪みからはどんどんカウパーが溢れてくる。それを指に絡めて、蟻の門渡りを辿って下へと指先を滑らせていく。  直接何もしていないのに、何年にも渡って俺を受け入れ続けている豪は、物欲しそうにしていた。ゆっくり押すと既に柔らかくなっている。豪以外との行為がないから断言は出来ないけれど、もしかしたらいつも、豪は自身で解してから来ていたのかもしれない。  いつだって自分の欲求に正直に、けれど俺だけを求めてくる、まっすぐな豪。諦めたくて、でも出来なくて、離れようとして、追いかけられて。  いま、ようやく少しだけ、満たされている、必要とされている、その充足を感じることが出来る。  竿の部分からも舐め上げて、白いものが混じり始めた液体を更に纏わせて塗り込む。素直に中へと誘われて、前立腺を刺激しては潤滑液代わりに排出させて、ゆるゆると解していく。  かつてなくじっくりと丹念に味わう、俺のものだという豪。  イキかけると指を別のところへ外し、とっくに受け入れ態勢が整っている体を調べ続けていると、体全体を跳ねさせて反応していた豪が、喉を引き攣らせて許しを請う。 「も、や……ぁっ……はや、く」  シーツの上に落ちていた手を持ち上げて、指先を俺の髪に絡めようとする。  正直、俺の体だって限界を示していた。だけど、心はまだまだ満たされていない。物理的な距離で逃げたのは俺だけど、心から逃げ続けたのは豪の方だ。もっと早くこうして触れ合えていたら……俺たちは、もっと。 「馬鹿りゅう。挿れろよ。欲しいんだから、お前が」  思考は、豪の言葉によって断ち切られる。 「欲しい? 俺が……?」  俺の、なにが。エロ親父みたいな台詞を吐きそうになり、苦い笑みが浮かんだ。  欲しい。欲しかった。ずっと。  豪が俺を求める心が、ただひとりだけに向けられる気持ちが、愛するというひたむきさが。  有り得ないと知っていて、それでもずっと欲していた。俺が感じているこのもどかしさが、ほんの少しでいいから豪に伝わればいいのにと思いながら。 「欲しい。琉真……」  肘で支えながら、豪が上半身を起こして俺を見る。中途半端に三十度くらいしか持ち上がっていなくて、少し震えながら潤んだ眼で俺を見つめている。  ああ、お前が欲しいのが俺の何かなんてもうどうでもいいか……  俺のものだって言うその口でまた女を口説いても、今俺の舌で気持ち良くなっている陰茎を日替わりで女に与えても。  ぐうっと、太股を両腕で持ち上げると、豪の背がシーツに落ちた。膝を腰の下に入れて、いつも俺を受け入れる場所を晒すと、そこは待ちきれないとほざく口と同じように物欲しそうに開いている。  かちかちになっている自身をそこにあてがうと、そこは更に開いて吸い付こうとする。すっかり性器になっている孔に、ゆっくりと腰を進めた。 「ぁっ、りゅうぅ……っ」  白い喉を晒して、豪の肢体が反る。見開かれた眼から涙が零れた。  雁首が入る手前で止めて、浅く抜き差しする。豪と俺の分泌液で塗れそぼった結合部は、ぬぽぬぽと嫌らしい音を立てた。 「あ、やっ、はやく、ぅっ」  腰を揺らしてもっと奥へと誘われて、少しだけ進めて止めた。浅い位置にカリが引っかかり、また豪の腰が揺れる。 「りゅうっ、りゅう」  また零れてシーツを濡らす涙を見ながら、汗で湿った上半身を起こしたまま、乱れる豪を見下ろし続ける。  きつく前屈させて口付けたいのと、このまま豪の全てを視界に収めていたいという相反する思いがせめぎ合う。  きゅうきゅうとムスコを締め付けられて眉根を寄せてしまいながらも、豪に求められたくて、ひたすら我慢してしまう。  本当はすぐにも放ってしまいそうなくらいに気持ちいい。けど、勿体ないから耐える。  確定している未来なんてないって知っているから――いま、この時、俺のだと断言する豪をじっくり味わいたい。  引っかけたまま円を描くように腰を回すと、びくびくと腿が震えて、子犬のように高い鼻声で豪が鳴く。 「ぁあ、あ、は、イくから、やだぁっ」  俺だけイかせたい豪は、いつも俺を拒絶してきた。こんなに乱れて、ひっきりなしに甘い声を上げて俺の官能を刺激するのに、今までは頑なに拒否してきた。 「どうして、豪」 「ぇ……?」 「気持ちいいことが好きなのに、どうして俺にはさせなかった……」  ぐっと上を刺激して、前立腺を責める。あ、と大きく口を開けた豪が跳ねた。 「やぁ、っ、そこ、や、」  やだやだと言い続けるのをシカトして天の邪鬼に突き続けていると、喉を引き攣らせて豪が果てた。中が絞るように蠕動するのに耐えきれず、俺もそのまま放ってしまう。  どれだけ没頭していたのか、すっかり意識の外に追いやられていた雨粒の音が、勢いをなくしているのに気付いた。俺と豪が吐く荒い息が感じられて、室内が静かになっていることに意識が向く。  いつもなら、ここでおしまい。だけど今夜は。  腰骨の位置で抱え直して、ずるりと侵入を再開すると、半ば伏せていた豪の瞼が上がった。  ぐぷ、と卑猥な音がする。  俺にまみれた中程に進めてから、またカリが引っかかる程度に引く。この一掻きだけで、達してすぐだったムスコが復活した。  またゆっくりと押し進めると、連動するかのように、豪の陰茎がそそり立っていく。それに気を良くして、中程までの抜き差しを繰り返しながら、片手で豪のものを掻いた。  強い刺激がないから物足りないのかと思えば、引くときの動きに合わせて豪の中が絡み付き、あぁ、と切なく豪が喘ぐ。  閉じる暇もなく喘いでいる唇が艶めかしくて愛しくて、吸い付きたいのに眺めていたいから、腰と手の動きに集中するしかなかった。  じっくりと致した中で、豪は何度も果てた。何度も何度も締め付けられて、二人とも空になるまで出し尽くした。  溢れる精液をかき混ぜて塗り込めて俺の匂いを擦り付けては悦に入り、これでもかとマーキングしまくった。  それらのどれひとつとして拒絶されず、欲の証にまみれたまま、ふたりで抱き合って眠った。  結局、俺の問いに豪が答えることはなかったのに、それでも満足してしまっていた。

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