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第3章ー1 Side:クロス(172 years old)
今年で15歳になったライナーが、いっちょ前にも、自分も廃墟の見回り役をしたいと言い出したため、今日は珍しく俺とリアとで、迷いの森とは逆方向にある「泉の森」へ薬草採りに来ていた。
必要な薬草は全て確保し、日差しが心地良い栗の木の下で一休みしていたのだが。
白狼の王とも言われる聖獣、ルー・ガルーの血を引く俺、クロス・クランツは困っている。
何を困っているかと言えば、胡坐をかいて座る俺の膝に小さな頭を乗せ、すよすよと眠る天使…いや、天使よりも愛らしいリアが可愛すぎて、このままずっと起こしたくない。
だが、流石にそろそろ住処である宿屋跡へ帰らないとマズい時間になって来た。
少しでも遅くなると、煩いチビ達が迎えに来てしまう。
チビ達だけならまだ抑えられるが、チビ達にメイテが付いてきてしまったら大変だ。
あっという間に俺の天使は取り上げられ、暫くは触らせてもらえないだろう。
…それは困る。非常に困る。
…仕方ない。
かくなる上は、リアを起こさないように抱っこして、可愛い寝顔を満喫しながらゆっくり帰ろう。
やっとの思いでそう決心したのに。
「あーっ!リアとクロス、はっけーんっ!」
「もう!遅いから心配になって迎えに来ちゃったよー!」
…煩い双子に出鼻を挫かれた。
遠慮ない声で叫ばれれば、当然リアも目を覚ます。
長い睫が震え、ゆっくりと紫電の瞳が開かれる。
「…リア?起きたのか?。」
まだ意識がはっきりしていないリアは、夢見るような眼差しで俺をぼんやりと見上げていたが、声をかけると、その細い腕を俺の首に回して、頬にちゅっ、と可愛いキスをくれる。
「…ク、ロス……にぃ、……お、はよ…?…」
……あぁ、至福。
普段は何かと小うるさく、面倒くさいメイテだが、これをリアに教えてくれた事にだけは素直に感謝している。
「おはよう、リア。…良く眠っていたな。そろそろ帰るぞ。」
そう言って俺もリアの真っ白なおでこにキスを返すと、そっと抱き上げ、廃墟の街へ向かって歩き出す。
「あーっ!もうクロス兄、ズルいよー!」
「そうよ!私達だってリアと手をつないで帰ろうと思っていたのに!」
「煩い、チビども。今日は俺がリアの日だ。
」
「もーっ!最近クロス兄、キャラ変わり過ぎだよっ!」
「ほーんと!鼻の下伸ばしっちゃってさ~」
好き放題言われているが、ほぼ真実なので黙っておく。
だが、鼻の下が伸びているなどという事は、揶揄であって現実には断じてない。
…無いのだから。
…リア、触って確かめなくてもいいぞ。
でも、不思議そうに俺の鼻の下辺りに触れて首を傾げているリアは、今日一番の可愛さだったと、俺はその日の夜、兄貴に大いに語ったのだ。
Side:クロス(172 years old) END
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