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第3章-3 Adventure-1
子供とはとかく“探検”や“冒険”という言葉が大好きな生き物である。
それは聖獣の血を継ぐ一族の末裔達であっても同様である。
と言う訳で今日は朝早くから、12歳になった双子のクレアとカルトの姉弟がリアを引っ張り出し、マルシエ城跡に探検に来ていた。
もちろんペガサスもいるが、この聖獣、己の主に危険が無い限り、誰が何をしようが、口出しはしない。
それがバルエ姉弟の性質の悪い悪戯であっても、対象がリアでさえなければ、ただ見ているだけである。
仕方なく、お目付け役で16歳になったライナーも来ている。
リアはもちろん、ライナーに抱っこされた状態だ。
お行儀よく、逞しい左腕に小さなお尻を乗せ、両手をライナーの首に回して右頬をぺたんと肩口に付けてぼんやりしている。
ライナーはそんなリアの頭を右手で優しく撫でてやっており、朝早くから起こされて眠そうなリアを、マルシエ城跡に着くまでの30分位だけでも寝かせてやる算段だ。
ちなみに、リアを抱き上げる役については、バルエ姉弟も立候補した。
足場の悪い瓦礫の上を、自分達とは違い、細く柔らかい足しか持たないリアを歩かせられる訳がない。
これは家族共通の意見だ。
しかし、まだ身長が170cmに満たない2人では、万が一にもリアを落としたら大変だと言う理由で、リアを溺愛する家族全員に反対されたのだ。
これについては、そう言えばライナーも我慢していたのを思い出し、リアを連れての探検を許されただけでも良しとし、渋々ではあるが諦めた姉弟だった。
やがてリアが眠りに就いたのを確認して、クレアが口を開く。
「ねえライナー、リアってもう私達の家族よね?」
「何があっても僕達から離れて行ったりしないよね?」
いきなり妙な質問をしてくる2人に、ライナーは顔を顰める。
「…何なんだ、いきなり。」
「…僕達、夢を見たんだよね…。」
「…。」
「私達って、ほんのちょっとだけ夢を司る聖獣、アルプの血も入っているの知ってるしょ?」
「今までこんな事一回もなかったんだけど、最近二人で同じ夢ばかり見るんだ。」
「…どんな夢を見るんだ?」
「…リアとマルシエ城跡を探検する夢。」
「…!…なっ?!お前たち?!」
「大きな声出さないでよ、ライ兄。リアが起きちゃう~」
「そうよ。それに悪い夢ではないと思うの。」
「何故わかる?」
「書庫?見たいな場所に行った時、聖獣ケット・シーが出てくるの。」
「夢はいつもそこで終わっちゃうんだ。」
「だから、これはもしかしたら私達を通じて、ケット・シーがリアを呼んでいるのかな、って…」
「…。」
ケット・シーとは、一般的には猫の姿をした下級聖獣だ。
特殊能力として、夢魔と同じような夢を操る力を持っていると言われている。
ちら、と、リアの頭の辺りを優雅に浮かんでいるペガサスを伺ってみるが、我関せず、といった感じだ。
「…お好きにしなさい、ってか。」
「ライ兄?」
「どうするの?」
「ここまで来たら行ってみるしか無いだろ?」
そう言うと、ライナーは止まっていた足を城跡へ向けて歩き出した。
街より少し小高くなった土地に、あちらこちらに大小様々な石が散乱している。
石には苔、僅かに残った城門壁や城その物にも、植物の蔓が幾重にも巻き付き、更にそれを覆い隠すように、杉やモミの大木を始め、背の高い植物が囲っており、遠くからではその全貌を見る事は出来ない。
初めて来る者であれば、ここがかつては壮大な城だったとは思わないだろう。
ライナー達は植物を掻き分けながら、少しずつ城へ近づいて行った。
そうしてようやく、城の中央入口だったと思われる付近に辿り着いた。
しかし殆どが聖獣達により破壊され尽くされており、見渡す限り、辛うじて建物だと認識できるのは、ほんの一部のみだ。
と言っても巨木と背の高い植物が覆っているため、この場所から目視できる部分は少ない。
「…おい、双子。どっちへ行けば良いんだ?」
「え~?そんなこと言われても分かんないよ。」
「そうよ。だって私達が見たのは書庫っぽい場所だけだもの。それがどこにあるのかまでは分からないわ。」
「…。」
あまりに無責任な双子のセリフに、ライナーは怒る気すら起こらない。
…さて、どうするか。
この瓦礫と木々の中から残っている建物を探すのは思った以上に大変そうだ。
ここにいるのが、サンダーバードの翼を持つキリエ兄なら、“上から見る”事も可能だろうが、残念ながらここにいる者には翼は無い。
いや、正確にはペガサスがいるが、リアの言葉でない限り、協力は仰げないだろう。
そしてライナーには、己の腕の中で幸せそうに熟睡している可愛いリアを起こす気は全く無いのだ。
「…仕方ない、順番に探して行くか。」
「は~い、さんせ~!」
「…って言うか、それしかないわよね~。」
相変わらず気の抜けるような双子のセリフに、脱力感を感じつつも、ライナーはまずは東側へと進んで行った。
『…あぁ……やっと来てくれたんだね、……待っていたよ…。』
『……リア、…まって……た……?…だぁれ……?』
『…ふふっ……もうすぐ会えるよ………僕のマスター……』
「……ま、すたぁ…?」
「…リア?目が覚めたのか?」
声を掛けられたリアは、きょとん、とライナーを確認した後、その腕の中で、大きな瞳をキョロキョロとしている。
ここが何処だか分かっていないようだ。
ライナーはそんなリアを見て、くす、と一つ喉で笑う。
そしてリアを抱いていない方の手で、その細い顎を軽く掴んで持ち上げて固定すると、リアの視線を自分に向けさせた。
「リーア、今どこに来ていたか思い出したか?」
「…ん。…ライ、ナー…。リア、おもい…だした…。」
「そうか、いい子だな。」
そう言ってライナーはリアの顎を固定したまま、端正に成長した顔を近づけると、ちゅ、とその小さく可愛い唇に口づけた。
そのまま柔らかな頬にも一つキスを贈る。
「あーーーーっ!!!!ライ兄!ズルイー!!」
「そうよっ、ズルイ!自分ばっかりズルいわ!!」
たちまち双子が騒ぎ出す。
「……ふぅ、いいんだよ、俺は。もうオトナだからな。」
相変わらずの3人のやり取りをリアは不思議そうに見ていたが、やがて何かに気が付き、襟足の部分だけ伸ばされたライナー青い髪を軽く引っ張り、合図を送る。
「ん?リア、どうした?」
もの言いたげなリアの様子に気づいた3人は、すぐに言い争いを止め、リアを見た。
「リア~?何か感じたの~?」
「何か見えた?」
3人にじっ、と見つめられ、少し困ったように言葉を探すリア。
「リア、ちゃんと聞くから、ゆっくりでいいのよ?」
「うん、うん。僕達いくらでも待つよ~。」
「…あっ…ち…。…きれ、い…な……おと?……す、ず…?」
そう言ってリアが指差したのは、ライナー達が向かっている方向から、やや右に向いた辺りだ。
「…よし。行くぞ。」
ライナーの号令で改めて3人は歩き出した。
『うん。…早く来てね、…僕のマスター…。』
Adventure-1 END
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