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第3章-6 ケット・シー 2

ライナーが一人叫んでいた頃。 年少組は、3人並んで先程降りて来た階段に座って、ライナーが帰って来るのを待っている。 さっきまで左右両サイドから、リアのプラチナブロンドを弄り回して遊んでいた双子のおかげで、今のリアのヘア・スタイルは、クレア渾身のプリンセスアップになっている。 だがやることが無くなり、更には待つことが大嫌いな2人は退屈してきたようである。 「ねぇ、もう20分は経ったんじゃない?ライ兄遅すぎ~。僕退屈になって来ちゃった。様子見に行こうよ~」 「そうねぇ。階段部分だけで20分位は歩いたし。この先の通路が同じ位の長さだとしたら、結構な時間待たされるかもね。」 と、双子のセリフが終わるか終らないかのタイミングで、リアが、すっ、と立ち上がる。 「…リア?」 「どうしたの?」 「…ずっと、よんで、る。……リア、いく…。」 カルトを先頭に、リア、クレアの順で狭い通路を進む。 ペガサスは浮かぶのを止め、リアの隣を歩いている。 「結構明るいわね。」 「光石だね。あ、分かれ道。リア、どっちに行く?」 何を仕出かすか分からない双子が暴れ出さない内に、取り敢えず一度戻ろうとライナーが通路を引き返していた時、耳に入って来たのは陽気な双子の声。 「…左だ。」 カルトの問いに答えたのは、リアとはまるで違う低い声。 「ゲッ!ライ兄!!…あはは…怒ってる?」 「だってライナーが遅すぎるんですもの!」 はぁ、とライナーはガックリしながらも、まだ実質的な被害が出る前だったため、取り敢えず良しとする。 まあ、被害と言えばリアの髪の毛がちょっとアレな感じになっているが、似合っているからそれも良しとしよう。 ライナーは髪型をチェックしていただけなのだが、じっ、と視線を向けていたために怒っていると思ったのか、リアがおずおずとライナーの前にやって来る。 「…ラ、イナー?……リア、まってろ、…できなかった…わるい、…こ?…ごめん、なさい……。」 頼りなくハの字に寄せらせた眉、涙で潤んだ大きな目。 加えて、俯き加減で小さな唇を噛んで、ライナーのチュニックの裾をきゅっ、と握った小さな手。 その目に溜まった涙が零れそうになった瞬間、慌てたのはライナーだ。 「リア?!俺は怒ってないからな?リアの髪型が可愛くなってるなーって、見てただけだからっ。泣くな?泣くなよ?」 すぐに抱き上げ、きゅー、とライナーの首に腕をまわして抱き着いてきたリアを、更に優しく抱きしめて背中を擦ってやる。 「…ライナーって、アレよね?…ヘタレキャラ!」 「だよね~。…それか、好きな子にイイとこ見せようと頑張るけど、詰めが甘い感じのいい人キャラ!」 「きゃはは~。言えてる~!」 アタフタ必死なライナーの隣で、相変わらず双子は言いたい放題だ。 いずれにしても、ホールに向けて出発できるのは、もう少し先なようである。 「あっ!ここだよ!」 「うん!場所は間違いなくココよ!リア、何か感じる?」 騒ぐバルエ姉弟とは反対に、リアはライナーに抱かれたまま、一点を見つめている。 「…リア、あれか?」 ライナーの問いに、リアはこくん、と首を縦に振る。 「…よし。行くぞ。双子は足元に気をつけろよ。」 ライナーを先頭に、瓦礫や散らばった本等をよけながら螺旋階段を降りる。 しかし、下まで来たのはいいが、床は足の踏み場がない位、黄色い結晶体で埋め尽くされている。 「…仕方ない。足場を作りながら行くか。」 と、ライナーがその魔力をもって結晶体を壊そうと指先に力を込めた時、 「こわす…だめ。……しぇら、……おねがい、…なの…。」 リアが止めた。 そして主の願いを聞いたペガサスが、空中でとん、と足を駆く仕草をすると、リア達の前には黄色の巨大な物体に向け、光の道が出来ていた。 …こんな事が出来るのなら、早くやって欲しかった、と、ちょっとやさぐれそうになったリア以外の3人だったが、あえて言葉には出さなかった。 なにせ相手は上級聖獣様である。 大分聖獣に対するイメージは崩れて来ているものの、敬愛対象である事に間違いは無いのだ。 『やっと…やっと来てくれたんだね、…本当に長い間待っていたよ…』 『……だぁれ…?』 『はじめまして。ユーグの子。…僕はパック。ただの黄水晶の精霊だよ。』 『……ゆ、ーぐ…?……リアは、リア、…っていうの。』 『ふふ…。うん、ならリア。僕に触ってくれる?』 「…ん。」 リアはライナーの腕の中から、黄水晶に向かって手を伸ばす。 「リア?」 そうしてリアの指先が触れた瞬間、巨大な黄水晶を絡め覆っていた蔓がしゅるしゅると解けていく。 次に、黄水晶に下からどんどんひびが入ってゆき、それが先端まで到達すると、今度は先端部からパラパラと、水晶が崩れ落ちていく。 半分ほど崩れ落ちたとき、ピカッと水晶が一瞬輝いたと思うと、そこには小さな精霊が現れていた。 体長は70cm位で、体より一回り小さい卵のような物を大切に抱き込んだような状態で浮かんでいる。 「…ありがとう、リア。…これでやっと役目を終わらせる事が出来るよ。」 「…精霊!?呼んだのはケット・シーじゃなかったの?」 「でも何でこんな場所に?」 「こんにちは。マルシエの子供達。君達と会えて嬉しいよ。…もう誰も残っていないと思っていたからね。」 「「えっ?」」 「…あなたは?」 「僕はこの黄水晶のパック(精霊)だよ。そして、ここにあるのがマルシエに最後に残された聖獣の卵。」 「「「聖獣の卵っ!?」」」 「ふふ…。驚いた?」 「…だって、卵は誕生の間から出すと死んじゃう、って…。」 「うん。僕達がふ化できたのは凄く奇跡的な事って…」 「でもその卵はまだ生きてますよね?…ああして、あなたが守っていたからですか?」 「…うん。…でもね、正直僕がこの子を守っていくのは、もう限界なんだ。だからこの子…ケット・シーの力を少しだけ借りて、君達に呼びかけたんだ。」 「「!!」」 「限界…とは、…つまり…。」 「…。そこの所は気にしないで。僕は僕の役目を終える事ができる。それが本当に嬉しいから。後は僕が知っていることを君達に伝えたらおしまい。…ああ、もう一人来たね。間に合って良かったよ。」 そう言って上を向いたパック。 蔓がすっかり無くなった天井部分から降りて来たのは、サンダーバードの翼を広げたキリエだった。 ケット・シー 2 END

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