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第3章ー8 ケット・シー 4

『…ひっく。………ひっく。……ごめん、なさ……ひっく…。』 深く沈んだ意識の中でも、リアは謝りながら泣いていた。 『……リア……リア。…ユーグの子…。…泣かないで…?』 『…ひっく……りあ、の。…せい、なの…りあ、が。…いた、…から……ふえ……』 『……ああ、やっと話す事ができたね。……リア、リア、聞いて。…君が頑張ってくれたから、ボクはもうすぐ生まれる事ができるんだ……君に早く会いたいよ…』 『……ひっく、…りあ、と……あ、う…?……。』 『そうだよ。…そうしたら、君とずっと一緒にいたいな。…』 『だめ…!だめ、なの!…りあ、と…ひっく。…りあ、といたら、のろわ…れる、の。…ふこ、う……に、なるの。………りあ、…おもい、だした、……の。』 『…違う。違うよ、リア。……リアはみんなに沢山の幸せを与えてくれたんだよ…?…ね、リア…君が助けてくれたこの命が…ボクが生まれるのを見ていて?…そしたら…きっとわかると思うから…。』 「…リア?起きたの?」 傍でリアを看ていたメイテの言葉に、家族達が一斉にリアが寝かされているキリエの寝台の周りに集まった。 キリエはと言えばこの3日間、間もなくふ化しそうなケット・シーの卵に付ききりで、毎日1時間ほどリアの顔を見に帰るのみで、すぐにまた卵の元へ戻る生活をしている為不在だ。 「「「「リア!!!!」」」」 しかし目覚めても、ただ静かに涙を流すだけで何も言わないリアに、皆胸が締め付けられて涙が出そうになる。 双子やメイテは既に泣いている。 クロスやライナーも、リアに笑顔を見せてやりたいと思っていたが、今は嗚咽をこらえるのが精一杯の様子だ。 そこへキリエが帰って来た。 家族達の様子を見てリアが目覚めた事に気付く。 そうして皆を少し下がらせて、寝台の端に軽く腰掛けた。 リアの美しいプラチナブロンドを優しく梳いてやりながら、その大きな瞳から流れる涙を長い指先で拭ってやる。 「おはよう、リア。…随分お寝坊さんだったね?よく眠れたか?」 「…キリ、エ、にぃ…。」 しばらくぼんやりキリエを見ていたリアだが、やがてその小さな手で、頬に添えられたキリエの長い指をそっ、と1本掴んだ。 「…ん?どうした?」 「…りあ、…けっと・しーのとこ、…いきた、い………だ、め…?」 「…もちろん良いに決まっている。さあ、おいで。」 そうして毛布ごとリアを抱き上げた。 「私達は卵の元へ先に行く。お前達も後からおいで。せっかくだから全員で見守ろう。」 キリエは大切にリアを抱いたままサンダーバードの翼を出し、ペガサスと共に飛び発った。  どくん。  どくん。 命の音が聞こえる。 リアは卵の前に胡坐をかいて座るキリエの膝の上で、背中を預ける形で座っていた。 リアを後ろからすっぽりと抱き込み、更にその上からサンダーバードの金色の羽で包み込んでいるキリエは、愛しい子供に優しく語りかける。 「…これはお前が救ってくれた命だよ。リア、お前が傍に居てくれるだけで私はとても幸せを感じる事ができる。更にこんなに素晴らしい贈り物をしてくれるなんて…。…本当にありがとう、リア。…これからもずっと私の傍に居ておくれ。」 キリエの優しい言葉と、髪や頬にくれる優しいキスに心が落ち着いてゆくのを感じながら、リアは卵を見ていた。 今はもうケット・シーの声は聞こえない。 だけど確かに“そこにいる”のがはっきり分かる。 卵は時々揺れ動いて、ケット・シーが生まれようと、…外の世界に飛び出そうと、一生懸命に頑張っているのがわかる。 いつの間にかライナー達もやってきていた。 皆、じっ、と、その時を待っている。 そうして。 その翌日の明け方、その時は訪れたのだった。 聖獣ケット・シー誕生。 命名:エスポワール ケット・シー END

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