22 / 163

第4章ー8 進学始業式-2 Side:サーガ・リンクス

「その辺り、適当に座っちゃって大丈夫っスよ。」 そう言って2人を振り返った俺に、言葉を返す訳でもなくライナーさんは無言で一番近くにあった椅子に腰かけた。 大事大事なリアちゃんは膝に横抱きにして、落ち着かせるように背中を撫でてやっている。 そんな様子を見ながら、俺は2人がやって来た日の翌日の事を思い出し、思わず笑いが込み上げて来た。  ~クランツ兄弟入寮翌日 ~回想~ 8:30過ぎに起きた俺は、顔を洗って髪型を整えると、適当なドレスシャツとベージュのスラックスを選んで着替える。 世話好きのウェルザは既に起きて、お茶の準備でもしてくれているんだろう。 人数が増えたからきっと張り切っているに違いない。 ウェルザの実家はカルフィン国内にあり、薬屋をしている。 その為、疲労回復に良いお茶や、良く眠れるお茶等、バリエーションは多い。 今朝はあの二人の為にどんなお茶をチョイスするのか、楽しみだ。 リビングに出ると、案の定ウェルザがキッチン(といってもコンロが1つとシンクがあるだけの簡素な物だが)に立っている。 「はよっ。やっぱ、あの二人はまだか。」 「おはよう、サーガ。」 「うん。…朝食は10時までだから、そろそろ声かけた方がいいよねぇ?」 「んっ、じゃあちょっと俺、声かけてくるわー」 俺はウキウキしながら、つい最近まで自室であり、クランツ兄弟が編入するに当たり移動した右側の部屋へ向かう。 軽くドアをノックしながら、 「おーい。ライナーさーん、リアちゃーん、朝ですよ~。ご飯は10時までだから、そろそろ行かないと食べ損なうよ~。」 俺の呼びかけに出てきたのはやっぱりライナーさんの方だった。 若干額に怒りマークが浮かんでいるか、気にしない。 美形は怒っても美形。 うん、眼福。 「…朝からウルサイ。俺達は朝食は取らない。お前達だけで行け。」 それだけ言ってドアを閉められそうになるのに、俺は慌てた。 「ちょ、ちょっと待った!ならウェルザのお茶だけでもどう?香りもいいし、リアちゃんの気分も落ち着くと思うしっ!」 「…リアを妙な呼び方で呼ぶな。…とにかく俺達は朝は何も……………そうだ、ちょっと待て。お前に聞きたいことがある。」 「えっ?何?何?何でも聞いてくださいよ!」 まさかライナーさんの方から話しかけて来るとは思っても見なかった為、俄然張り切る。 「洗面所にあるバスルームじゃ無い方にある小さい部屋は何だ?」 …はっ? 洗面所でバスルーム以外の部屋? …流石にトイレの事…ではないよな。 他に何かあったか…?混乱している俺に、 「知らないならいい。」 そう言って再びドアを閉めようとした為、慌てて答える。 「だからぁ、ちょっと待ってくださいって。ライナーさん気ぃ短かすぎッスよー。」 そこへ、ウェルザがやって来た。 「もう、サーガってばまたバカな事、言ってるんでしょう?…すみません、ライナーさん。」 「…いや。…お前は知っているか?」 「?何の話ですか?」 「…洗面所にあるバスルームじゃ無い方にある、小さい部屋は何だ?」 ウェルザにも同じ質問をしているが、当然ウェルザも不思議顔だ。 「…。お前たちの部屋には無いのか…?」 「い、いえ。左右で部屋の作りは同じはずですが…。」 噛みあわない話に、お互いが無言になる中、 「…ちょっと待ってろ。」 そう言ってライナーさんは一旦ドアを閉めた。 少ししてドアが再び開くと、そこにはリアちゃんを頭からシーツに包んで子供抱きにしたライナーさんがいた。 そして抱き上げられたリアちゃんの胸元には、召喚獣だろう光が2つ。 その内の1つが、昨日から感じているやたら存在感がある召喚獣に違いない。 「…入れ。」 それだけ言うと、バスルームの方へ歩き出す。 ウェルザと一瞬顔を見合せた後、すぐに後を追った。 部屋の作りは基本的に皆同じだ。 細長い部屋の中央部に入口があり、そこを中心に左右がそれぞれのパーソナルスペースになっている。 家具の配置も同じで、入り口から遠い順にセミダブルのベッド、デスク、ワードローブと配置され、中央部にソファセットが配置されている。 見た感じ、窓側のベッドは使われた形跡がない。 …なるほど。一緒に寝たって事ね…。 そんな事を思いながら洗面所まで行くと、ライナーさんが大真面目な顔をして、トイレのドアを差した。 「…あそこだ。」 「「「…。」」」 「「「……。」」」 「「「………。」」」 アレは今思い出しても、緊張感のある無言タイムだった。    ~回想終了~ 「…ぶふっ!……くっ…くくっ…」 突然笑いした俺を、ライナーさんは嫌そうに、ウェルザは迷惑そうに見てきた。 リアちゃんは俺には全くの無反応で、ライナーさんにベッタリだ。 …まあいいけどね。可愛いから。 それにしても。 まさか本気でトイレを知らない人間がいたとは驚きだ。 しかもライナーさんが住んでいた村にはどこにも無かったと言うから、更にびっくりだった。 …マジな話、“どうして”たんだ? それに幾つかの矛盾もある。 話の内容から、凄い田舎に住んでいたのは分かったが、水道施設が無かったわけではなく、バスルームやキッチンはあったと言うのだから、訳が分からない。 その後は気を取り直したウェルザが、懇切丁寧に使い方を説明していたが、 「…お前も、コレをつかっているのか?…1日何回位使うんだ?」 とライナーさんに真顔で聞かれ、顔を真っ赤にして部屋を飛び出して行った。 ライナーさんも腕に抱かれたリアちゃんも、そんなウェルザをキョトンと不思議そうに見送った。 「オニーサン、それはセクハラっすー。」 「…セクハラ?それは何だ。」 「…。」 俺はだんだんと笑いが込み上げて来るのを抑えきれなかった。 「…ふ、ふふふ、ふ…ぶはっーっ!!…くくっ。オニーサン、面白過ぎっ!…マジそれ、天然っすよね?……クククッ…」 そう言えば、あの後も色々濃い事件がありすぎて、トイレ云々の事はうやむやになってしまったが、ちゃんと使えてるのだろうか? …後で確認しておこう。 俺は綺麗なモノが大好きだし、楽しいことも大好きだ。 とにかく、おれの好みにストライクなこの二人は、この先も沢山の娯楽を提供してくれそうだ。 …楽しい1年になりそうだ。 進学始業式 2 ◇Side:Saga links END

ともだちにシェアしよう!