俺達がココへ来て今日で4日目。 もうすぐナントカって式が始まるらしいが、関係ない。 「ニンゲンの社会を見極める」、とか何とか、あのくそジジイに誑かされて、故郷を出る事が決まったのが、今から約半年前だ。 …そう。 あの雷の月。 泉の森のあの場所で。 あの“くそジジイ”に出会った。 あの日は妙に森がざわついていた。 驚くことにペガサスは泉の森に入ってすぐ、その擬態を解き、完全体に戻った。 それを見た俺は、何か異変が起きている事は間違いないと思い、キリエ達に報告すべく、すぐに森から出ようとしたのだが、それを止めたのは腕に抱いていたリアだ。 俺が感じる位の異変にペガサスが気付いていない訳が無い。 完全体に戻っているのが、その証拠である。 しかしこのまま進むと言ったリアに対し、ペガサスは特に何も言わなかったため、仕方なく俺は周りを警戒しつつ、リアに促される方へと向かった。 そしてたどり着いたのは通称・七色の泉と呼ばれる泉だった。 その昔、まだマルシエが国として機能していた頃には、過去や未来を映す泉として、予言師達がその七色に輝く水を利用していたらしい。 俺もキリエ兄から昔話として聞いただけで、実際にこの場所に行ったのはあの日が初めてだった。 そこにいたのが、くそジジイの“影”だ。 その影を見た途端、リアがペガサスを見た。 「…シェ、ラ。…あれ、なに？…」 『…あれは召喚士。それも聖獣フェンリルと契約した、人間界における最高峰の召喚士の…影ですね。』 「聖獣フェンリル？！…しかも人間と契約っ！？」 衝撃を受けている俺など眼中に無いかのように、ペガサスは影を見つめている。 『…困りましたね。』 そう言って、一歩前へ出ると、影に向かって話し出す。 『いずれ来るとは思っていました。…ですが我が主はまだ幼い。ここを出す事には賛成できません。』 『…それは分かっておる。…じゃが、我々の想定以上に魔物の増殖が激しい。…すまないが、もうあまり時間が無いのじゃよ…』 「ちょっ、ちょっと待ってくれ！どういう意味だ！？…まさかリアを俺達から離す算段じゃないだろうなっ！！」 リアを強く抱きしめ、叫ぶ。 リアも大きな目を不安そうに揺らして、影を見ている 『…マルシエの生き残り、じゃな。…本当によく生きていてくれた、我が同朋よ…。』 「…なっ？同朋…？！」 『…そうじゃ。…こうして聖獣と契約出来る程に血は薄まってしまったが、ワシの一族は、確かにマルシエ出身じゃ。』 「……！」 『…今日は一度帰って、皆でよく話をするが良い。…ペガサスも今なら黙して語らなかった事も、話してくれるじゃろう…。』 その言葉に従い、俺達は帰った。 そしてその日の夜。 リアとバルエ姉弟が寝静まったころ。 ペガサスはそれまで固く口を閉ざし語らなかったリア自身の事、リアの持つ運命について大人たちに語ったのだ。 それから。 家族で何度も話し合いをして、もちろんリアの意見もそれとなく聞きながら、最終的に決まったこと。 その1つが、まず「人間社会に出てみる事」だ。 これについては、“くそジジイ”こと、カルフィン共和国が誇る最高峰の召喚士・シェルバ・メルケルが、人間の“ガッコウ”へ行く事を提案してきた。 そこでなら、召喚士であるリアに必要な勉強もできるし、人間の生活を学ぶ事も出来るという。 リアに強い魔力がある事は皆知っていた。 しかし、俺達はリアに危ない事をさせたくなくて、魔術に付いては一切教えてこなかった。 召喚については、…俺達は絶対に召喚士にはなれない。 なぜなら、俺達は彼らの眷属であるが故に、世の理によって主従関係は結べないことになっている。 そのため、もともと最初から教えるのは無理だ。 それで色々話し合った結果、年齢の合う俺とリアが“ガッコウ”へ行く事になった。 年齢だけで言うとバルエ姉弟の方が、長く一緒にいられるため適任だったが、彼らにはどうしても無理な理由があった。 それは、彼らには始祖の聖獣アイギパーンの血が濃く出ており、膝から下のヤギの足については、何とかヒトの足に擬態する事ができたが、どうしても頭に生えたヤギの角を隠す事が出来ず、完全な“ヒト”に擬態する事が出来なかったからだ。 正直、俺達にとって母国を滅ぼした憎むべき“ヒト”に擬態する等、屈辱以外の何物でも無いのだが、リアの為なら別だ。 今頃は2人で猛練習している事だろう。 そうして来る事になったのが、このカルフィール魔法学校と言う訳だ。 だが人間と俺達の文化…というか、生活様式や生態そのものにも大きな隔たりがあり、驚きとカルチャーショックの連続で、正直俺でもキツイ。 リア等はずっとぐったりしている。 これから始まるだろう更なる試練を思い、俺は小さくため息を吐いた。 進学始業式　3　◇Side：Liner　END