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第4章ー24 明日から授業
昼寝を終え、リアの撮影会の途中でペガサスの警告により、慌てて擬態を始めるライナー。
その間にリアには、ウェルザがリアの為にリビングにお茶を用意してくれている事を伝え、リアが頷いたのを確認したところで、ライナーは擬態に集中する。
一方のリアは、聖獣2体を伴いリビングに出ると、中央に置かれたソファセットのテーブルに、黄色いカップが並べられているのを見つけた。
ライナーは1杯で良いと言ったのだが、そこには4杯のお茶が用意してあり、内2つはリアが親睦会の時に渡したシェラとエスティのカップに淹れてあった。
カップの中は綺麗なヴィオレッドをしたハーブティで、リアが小さな顔を近付けると、ほんのり甘い香りがした。
「ね、シェラ、エスティ、…いい、におい。」
リアは2人にカップを差し出す。
「にゃ?ん~いい匂いニャ。リア~、あの人間は良いニンゲン?」
「……リア、わからない。…でも、シェラとエスティに、おちゃ、くれる…。…リア、……うれし、い…。」
『ありがとう、主。あなたが嬉しいと私も嬉しいですよ、リア。』
「そうだな、リア。良かったな。」
ほんのり頬を染めながらエスティと話していたリアの頭を、ぽんぽん、と軽く撫でる大きな手と優しい声は、ライナーだ。
既に擬態を済ませ、髪は黒に変わり、腕も首筋もリアの大好きな鱗は消されている。
そのまま暫し2人と2体は、冷めても美味しいブルーベリーをメインにブレンドしたと思われるバーブティーを楽しんだ。
「ね、ライナー?サーガ、ウェルザ、…いい、ヒト?」
床に直接ぺたんこ座りをして、小さな頭をこてん、とかたむけて聞くリア。
リアの幼い仕草に、ツインテールがゆらゆら揺れるのが、愛らしいリアを更に引き立てている。
……リア…マジで可愛い!
……そしてグッジョブ、俺!!
と内心はリア賛美&自画自賛のライナーだが、そこは長年の訓練により、リアの可愛さにある程度の耐性ができているため、バカな内面をリアに気付かれるようなヘマはしない。
「…悪い、リア。その質問には、俺もまだ答えが出てない。…ただ、俺が想像していたような嫌な召喚士ではないのは確かだな。」
「……。」
「それより…リア、明日からは授業が始まる。ペガサスとエスティは一緒にいても大丈夫らしいが、俺は一緒にいてやれない。どうする?不安なら個人授業にしてもらうか?」
…と、そこまで話した時、入り口側にあるリビングのドアが勢いよく開いた。
「ちょ、ちょっと~!個人授業とか、どう言う事っすか、それ~?………って、しかもまたすっごく可愛くなってるし~!」
声を上げて入って来たのはもちろんサーガだ。
横にはフェイトを連れている。
その後ろからウェルザとリーナも入って来た。
召喚獣達はダイニングルームには入れないので、食事を食べ終わった後どこかで召喚したのだろう。
余談であるが、ここカルフィール魔法学校では、講堂や大浴場、ダイニング等の一部の禁止区域以外なら、召喚士が召喚獣と共に行動する事は制限されていない。
むしろ召喚獣と、より心を通わす為として推奨されている。
「ね~、リアちゃん?俺達2人ともリアちゃんと同じクラスだし、一緒にいるし大丈夫だよ?ファイトやリーナもいるし、寂しくないよ?もちろん、こんなに可愛いリアちゃんをいじめる様な奴も絶対いないし。」
力説するサーガの隣ではフェイトがリアを一心に見つめ、心話をしていた。
『…ユーグの子。マスターは優しいよ?大丈夫だよ?』
『そうよ。ウェルザもサーガも私達を家族の様に大切にしてくれているわ。』
そこへリーナも加わった。
聖獣や精霊達の声は“音として”発せられない限り、人には絶対聞くことが出来ない。
そして、召喚獣は絶対に“音”を発する事が出来ない。
なぜなら、一般には全く知られていないが、召喚の際に使われる召喚陣の中には、召喚されてきた者の声を奪う“呪詛”が組み込まれており、そこを通って召喚された召喚獣は必ず声を奪われる“仕組み”になっている。
この事実は、魔術研究所の一部の幹部のみしか知らない極秘中の極秘事項だ。
もちろんサーガやウェルザも、まさか自分達がフェイトやリーナの声を奪っているとは思ってもいないだろう。
そもそも召喚陣自体、いつ、誰が、どうやって造りだしたのかさえ、文献1つ残っていない為分かっていない。
また、どういう仕組みで召喚獣達がやって来るのかさえも、研究はされているものの全く解明されていない。
故に、召喚術はとても危うい魔術なのだ。
なにしろ、召喚陣を扱う者がその正体を知らないのだから。
召喚陣の中に呪詛が組み込まれているのが分かったのは、王立魔法研究所の最高顧問であるシェルバ・メルケルが、己の召喚獣で、聖獣の中でもトップクラスに当たるフェンリルから、何十年もかかってやっと得た情報なのだ。
音でする「会話」に対し、「心話」とは音を伴なわず、聖獣・精霊同士あるいはライナー達の様な眷属、そしてリアとの間でのみ成立する会話方法だ。
心話はサーガやウェルザには絶対聞こえないので、ファイトやリーナはある意味安心して、こうやってリアと話ができるのだ。
ちなみにもちろん、精霊達の心話はライナーや2体の聖獣にも聞こえている。
「……どうする?リア?」
「………。」
ライナーは黙って俯いてしまったリアを優しく抱き上げ、定位置…つまりは自身の膝の上に戻して、後ろからその華奢な体をぎゅっ、と抱きしめる。
「リーア?」
『リア、大丈夫よ。』
『信じて、リア。』
「…リア君…。君は凄く感受性が強い子みたいだから、無理はしなくていいからね?でも僕達と行ってくれるなら、サーガと2人で全力でフォローするから。」
「もっちろん!任せて、リアちゃん!」
『にゃあ。リア~、エスティも大丈夫、…だと思うニャ。』
『少しお静かになさい、あなた達。…最後に決めるのは主です。…主、あなたの好きなようにして良いのですよ?』
ライナーは何も言わない。
リアの答えはわかっているから。
「……リア、みんな、いっしょ、い…く。」
くるりと振り返ってそう言ったリアに、ライナーは一抹の寂しさを感じながらも、
「そうか。」
ひとこと言い、リアを励ますように優しいキスをした。
明日から授業 END
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