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第4章ー28 初めての授業-4 ◇1時間目:HR-1
担任のマークがリアの教室を示した途端、ライナーはリアの手を引いたまま教室に入り、その場で室内を見渡す。
召喚A-1クラス(召A1)は、リアを入れても全部で7人しかいない。
リアから見れば、6人のクラスメイトが出来る訳だが、その内の3人とは既に顔見知りである。
同室のサーガとウェルザはもちろん、先日親睦会に連れて来られていた2年の編入生、ハミール・レジスタの姿もあった。
「ちょ、ちょっとオニイサン、クラス違うんだし少しは遠慮してくださいよ。あっちの三人、固まっちゃったじゃないっスか~!」
他の三人とは初対面になるが、その三人は突然入って来た噂の兄弟の噂以上の美しさに、言葉もなく見とれていて静かなものだが、その分煩く近づいて来たのはサーガだ。
「…煩い、黙れ。」
「酷っ!!俺達朝早くからリアちゃんの為に頑張ったのに~!!」
リアの席の配置は、昨晩の内にライナーに指示を受けたサーガとウェルザによって、完璧に整備されていた。
教壇から見て、2・2・3の変則フォームで、最後尾の真ん中にリアを挟んで廊下側にサーガ、窓側にウェルザとなっている。
「…フン。取り敢えず、指示通りにはなっているようだな。」
「…はい。クラスの子達には事情を話して、快く承諾してもらいました。」
「そうか。すまなかったな。…リア、お礼を言わないとな。」
サーガはウェルザとの扱いの差に大抗議だが、もちろんライナーはスルーして、優しくリアに声を掛けた。
「…………あり………が、…と……。」
ライナーの腰辺りにぎゅっ、と抱き着き、少しだけ振り返った状態で本当に小さくお礼を述べたリア。
恥ずかしいのか、あるいは不安からなのか、大きな瞳はうるうると潤み、薄い肩は小さく震え、何とも庇護欲をそそる姿だ。
そして、抗議をしていたサーガもピタッ、と動きを止めるほど愛らしい姿でもある。
ライナーは既にいっぱいいっぱいになっているリアを抱き上げると、後ろのリアの席まで行く。
そのままリアを膝に乗せて向かい合わせに座ると、ぎゅっと抱きしめてやった。
「…リーア。ちゃんと言えたな。えらいぞ。」
そうして髪に、瞼に、頬に幾つもの優しいキスを贈る。
「…ん。ライナー、……りあ、……がん、ばった…?」
「ああ。良い子だな、リア。」
そう言って、ちゅっ、と愛らしい唇にも口付ける。
「「「「「「「「………。」」」」」」」」
リアとライナーから、忘れられた存在となってしまった教師2人とクラスメイト達は、目のやり場に困ると思いながらも、オペラのワンシーンのような2人から目が離せないでいる。
静まり返った教室の入口では、いち早く正気に戻ったミルアム・ロダが、ライナーに向かい、控えめに声をかけた。
「……ライナー君、そろそろ私達もクラスへ移動しないと拙いのだが?」
その言葉に反応したのはリアの方が早かった。
ライナーの腕の中でビクッと体を震わせ、言葉より雄弁に語る不安いっぱいの瞳でライナーを見る。
そんなリアの頭を軽く撫でてやると、優しく抱きしめてリアの視界を遮断したうえで、ライナーは自身の担任を威嚇するように睨み付けた。
「…こんな状態のリアを残して行け、と…?」
溢れる怒りのオーラに、嫌な汗が流れるのを感じながらも、ミルアムはライナーの魔力の強さに感動していた。
さて、この場をどうやって収めようか、とミルアムが思案していた時、召喚クラスフロアの入り口に、厄介な人物が入って来たのが目に入った。
…そう言えば昨日の式でも2人にちょっかいを出していたな…。
このままでは間違いなく厄介な事が起こる。
分かってはいたが、その人物はどんどん近付いてきて……
「あっれ~?ミルアムせんせ~?なんで召A1に?…ってか、今日からリア君来てるんでしょ?せっかくだし顔見て行こ~っと!」
そう言ってミルアムが止める間もなく、嵐は教室へと入って行った。
「リ、ア、く~ん!……あれ?……ライナー君…?……あはは!流石は弟君命のお兄さん。今日もお膝抱っこだねっ!…それにしても、君達ってホンと目の保養だね~。あ゛~描きたい!彫りたい~!あ~も~芸術家の血が騒ぐ~!!!」
「「……。」」
テンションが高すぎるその男…ルマーシェ・ビランに、リアとライナーは引き気味だ。
だが、
「……いる…か、のヒト?」
リアの一言で、似たようなテンションを持つサーガが噴出した。
「ブフッ!!!ルシェってば、あんなにインパクト残したのに、名前、超覚えられてね~!ぎゃはは~!!」
サーガとルマーシェ・ビランとは、母方の従兄同士だ。
貴族階級で言えば、ルマーシェの家の方が中流貴族のサーガよりかなり上であるが、2人は同じ召喚士同士という事と、何より互いのテンションが合うため、仲が良かった。
そしてお互い「芸術クラブ」に所属し、美しい物を愛する“同志”でもある。
「……そうだよ。でも“イルカの人”じゃなくて、僕の名前はルマーシェ・ビラン。覚えてね、リア君。ライナー君も。」
バカ笑いを続けるサーガに、イラッとしながらもリアを怖がらせないため、精一杯の笑顔をつくるルマーシェ。
ライナーは勿論、リアを抱きしめたまま、警戒態勢だ。
「う~ん、前も行ったけど、僕は君達をすっごく歓迎してるんだよ?だからそんなに警戒しないで?……それと…。そこの大きな光と小さな光が、リア君の召喚獣さんかな?……ああ、やっぱり凄いね。アルプが跳ね返されるなんて、どんな召喚獣なんだろ?って思ってたけど……存在感がハンパないね~。今日は我慢するから、今度紹介してね?」
そこまで言うとルマーシェは担任のミルアムを振り返った。
「取り敢えず、そろそろ教室行ってHRはじめないと拙いんじゃナイ?」
初めての授業-4 ◇1時間目:HR
END
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