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第4章ー33 異端者との遭遇-1
ライナーは泣き疲れて眠ってしまったリアを、大切に抱いて寮へ向かって歩いていた。
カルフィール魔法学校はおよそ500ha(500万㎡)の広い敷地に、校舎が4棟、ホール(講堂)3棟、体育館3棟、そして図書館が2か所ある。
校舎4棟のみが隣接して建てられており、特別教室と教員の個室(ラボ)が入っている5階建ての特別棟を中心に、各棟がTの字を描くように100m程の渡り廊下で繋がれている。
Tの左翼にはリア達召喚クラスが入る4階建ての召喚棟、右翼に一般生徒達の教室が入った6階建ての魔術師棟、T字の下部が職員室や生徒会室、食堂等が入る4階建ての職員棟が配置されている。
召喚棟から寮へ戻るには、職員棟の中央部から真っ直ぐ南へ伸びるメイン通りか、少し東に逸れた森の小道を行くかのどちらかだ。
いずれにしても、職員棟の1階にあるカフェの前を通る事になる。
時刻は10:30過ぎ。
昨日から生徒会室に缶詰めだったフィランド・イプサムは、カルラと2人、1階のカフェで軽い食事でもしようと4階の生徒会室から降りて来ていた。
この時間、普通の生徒は授業中であるため、煩い視線に晒される事も無いだろうと踏んでの事である。
少し外の空気も吸っておこうと、オープンデッキに2人向かい合って座った。
そこへ先程感じた強烈な気配と共に、こちらへ近付いて来る気配を感じ、フィランドは思わず口元が弛む。
もちろんその気配はカルラも感じたらしく、メニューを見ていた視線を上げ、面白そうに気配がやって来る方向を見ている。
フィランドは軽い挨拶位なら問題ないだろうと、掌に炎の魔力を溜め、獲物がコーナーから顔を出すのを待つ。
…3、2、1
ズバーン!!!
響き渡る爆発音。
爆風に舞い上がる砂煙。
そして。
姿を現したのは、右手で攻撃を受け止め平然と立つライナーである。
リアはエスティと一緒に、今は本来の大きさに戻って結界を張ったペガサスの背中だ。
結界の効果で、普通の人間には大きな光の固まりにしか見えない様になっている。
「……俺とリア、今どっちを狙った?」
一切の表情が抜け落ち、美しいブルーの瞳を今は氷の様に冷たく光らせたライナーが問う。
「…俺の攻撃を片手で受け止めたか。ククッ…これは噂以上だな。」
フィランドは愉しそうに嗤いながらカフェチェアから立ち上がり、メイン通りの石畳まで進み出た。
「…そんな事は聞いていない。…答えろ。どっちを狙った?」
「そうだな、あえて言うなら“両方”だな。」
フィランドが言い終るか終らないかのタイミングで、ライナーから鋭い氷の刃が放たれた。
それを愉しそうに炎で打ち消すフィランドだが、ライナーから放たれた魔力はあまりに大きく、全て打ち消しきれずに左腕を引き裂かれ、とっさに回復魔法を唱える。
しかし唱術も無しに次々と高速で放たれる刃に、頬、腕、足等、フィランドの傷はどんどん増えてゆく。
一方、カルラは2人の戦いを見ながら制止するタイミングを見計らっていた。
何しろフィランドは遊び半分で仕掛たのだが、相手は掛け値なしの本気である。
フィランドを傷つける事を少しも躊躇っていない。
…どころか、全て急所狙いで本気で殺す勢いだ。
目を見たとき、正直これはマズイと思ったが、止めるなと言うフィランドの無言の訴えを感じたのと、自分自身も興味があったため、止めるタイミングを逸してしまった。
…これは本気でマズイな…
…それにしても弟の方は何故出てこないのだ?
◇Side:リア
…らい、なー……?…おへや、ついた…の…?
抱っこから降ろされる感じがして、リアは薄っすらと目を開けた。
「…リア、ちょっとの間ペガサスの背中、乗っててな。…エスティ、頼む。」
『はいニャ!リア~、もうちょっと寝てるニャ~』
そう言ってエスティがふんわり光ると、リアはまた眠りに就いて行く。
…あ、れ……?……りあ、また…おひる、ね……?
そこでリアの意識は途絶えたのだが、
『……主、…リア。私の声が聞こえますか…?』
『…ん………しぇら…?………なぁに…?』
『…イプピアーラの子を止めてほしいのです…このままでは……』
『……いぷ、ぴ……?……らいなー…?』
ライナーの名前が出たところで、リアは目を覚ました。
「…しぇら?……らい、なー……どこ…?」
『………あそこです。』
寝起きでぼんやりはしているものの、しっかり問いかけて来たリアに、ペガサスはフィランド相手に壮絶な攻撃を繰り返しているライナーを示した。
強力な結界の効果で、外部の音や臭いは遮断されているため、リアにはその姿が見えるだけであるが。
……!!…らいなー、……たたかって、る……?
…そのヒト、だぁれ……?……わるい、ヒト……なの…?
「…しぇら……、あのヒト、……わるい…ヒト…?」
『…私にはその判断は出来ません。……ただ、悪意は感じません。……が、悪ふざけが過ぎるタイプのようです。』
「……。」
『いずれにしても今、イプピアーラの子は初めての人からの攻撃に頭に血が昇り、正常な判断が出来ていないようなので、…リア、彼を止めてくれますか?』
「…こうげ、き……?…あの、ヒト、……らいなー、こうげき、した……の…?」
『…そうですね。…ただあくまでも悪ふざけのつもりの様でした。…よくアイギパーンの双子達もやっていたでしょう?』
ペガサスの言葉に、リアはライナーが攻撃している相手をじっ、と見つめた。
そして今度はライナーを見る。
「……。」
リアの大好きな優しい瞳も笑顔も全く消し去ったライナーは、まるで知らない人の様だった。
……あのヒトは、…べつに、どうで…も、いい…
…でも、りあ、……らい、なー……こわ、い…かお、……いや………
「……シェラ、…リア、おろし、て…?」
◇Side:リア END
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