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第4章-34 異端者との遭遇-2

……チッ……流石に…ちょっとまずいか… 一瞬でも気を抜けば、致命傷となるだろう攻撃を次々繰り出してくるライナーに、フィランドは今更ながら少し反省していた。 あくまでも“少し”だ。 どちらかと言えばこれほど強い相手と手合せ(あくまでもフィランドの主観。ライナーは“敵”として戦っている)している事が楽しくてしょうがない。 戦闘民族の血が騒ぐとでも言うのだろうか? しかし流石にこのまま続けるのは拙いと理性が告げている。 現に、寮までのメイン通りの石畳は大きく破壊され、また一部は氷漬けになり散々たる有様だ。 これだけ大騒ぎをしていたら、教師の誰かがやって来るのも時間の問題だろう。  !!  ……チッ、しまった! 気を抜いては、と思っていた矢先、ほんの少し戦闘から気が逸れた瞬間に放たれた氷の刃に避けるタイミングが合わず、フィランドは相当のダメージを覚悟して防御態勢を取った。 しかし。   ぱぁぁぁ!!!! 強烈な閃光とともに、ライナーの放った氷の刃はフィランドに届くことなく飛散した。 「「……なっ!?」」 ライナーとフィランド、2人の驚愕の声が重なる。 そうして光の中から姿を現したのは、 「……ッ…リアッ!!……シェラッ!!…なぜ連れて来たっ?!」 『…そうやって不用意に私に話しかける程、あなたの判断能力が低下していたからです。』 背に乗せていたリアを大きな両翼でゆっくりと降ろしてやりながら、自身は本体を現さないままで、ペガサスが答える。 「!!」 ペガサスの言葉に我に返り、そのまま固まってしまったライナーの目の前まで来たリアは、今までに見た事が無いライナーの激昂した様子に驚き戸惑いながらも、一生懸命ライナーに向かって両腕を伸ばす。 「………ライ、ナー…。…こ、わい、おかお……だめ…。」 ライナーは涙を一杯に溜めたリアを見て、熱くなっていた血が一気に冷めるのを感じる。 「…ッ……リア……すまない……。」 そうしてリアを抱き上げると、その鎖骨辺りに顔を擦り付けながら小さな背を抱き、苦し気に謝罪を繰り返す。 「……ライナー、…リア、…もうこわ、く、ない。……だい、じょうぶ。」 リアは胸元にあるライナーの頭を慰めるように優しく抱きしめると、ふと視線を上げた。 そして先程から自分達を凝視している“人間”を、その澄んだ瞳で、じっ、と見つめる。 束の間、至上の宝石のようなリアの紫と、翡翠のようなフィランドの碧が交錯した。 「……ライ、ナー……あれ、…は、わるい、……ヒト…?」 視線はフィランドに置いたまま、リアが問う。 「……。……少なくとも、俺にとっては。…お前に攻撃しようとした時点で、悪いヒトと言う理由になる。」 その言葉にリアはきょとん、と顔を傾けた。 「……りあ、を……こうげ、…き……?」 「…ああ。」 リアは軽く握った小さな手の人差し指付近を唇に当て、とても不思議そうな顔をしている。 「…ライナー、リア、…こう、げき……おこった?」 「…。」 「…ラ…イナー、……えっと、ね、……にんげん、が、…リアのこと、…きら、い、…は、ふつう。……いっぱい、たたく?…も、…ふつ、う…だよ…?」 人間が自分を嫌うのは普通。攻撃(暴行)をするのも普通の事だと言い切り、だからあのヒトは、“悪いヒト”ではなく“普通のヒト”だと言うリア。 …ペガサスから聞いていた、幼少期のリアが育った劣悪な環境。 …分かってはいたが、その頃の経験が未だにリアに暗い影を落としている事を、今更ながら思い知らされたライナーは、その幼少期に関わった全ての人間を皆殺しにしてやりたい程の憎悪に駆られながらリアをかき抱く。 「……ッ、もういい。もう分かったから、リア。…怖い思いをさせてすまなかった。今日はもう帰ろう、な?」 「…ん。……かえ、る。」 「…そういう訳だ。今日は水入りにしてやる。…だが次にリアを狙ってみろ。…その時は今度こそその息の根、止めてやる。」 振り返り鋭い目でフィランドを見やるライナーだが、当のフィランドは2人を(正確にはリア一人を)凝視したまま固まっている。 「……。」 相手の無反応を特に気にするでもなく、ライナーは踵を返す。 その後ろでは、大きな光がもう一度ふわっ、と輝くと、壊れた石畳も、巻き込まれて一部破損していたカフェのオープンデッキも、全てが元通りになっていた。 「「…。」」 そして辺りには静けさが戻ったのだった。 異端者との遭遇 2 END

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