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第4章ー35 異端者との遭遇-3 ◇Side:フィランド
カフェのオープンデッキに座って間もなく。
戦闘民族の血を騒がせる“あの”気配を感じた俺、フィランド・イプサムは、すぐに掌に魔力を集めた。
普段なら止めたであろう目の前に座る従兄、カルラ・ヤギューもおれの行動に何も言わない所を見ると、要は「試してみろ」という事なのだろう。
俺はある程度加減はしながらも、当たれば火傷では済まない位の魔力を込める。
…3,2,1
しかし、俺の攻撃は当たるどころか跳ね返されるでも、反属性魔術で相殺されるでもなく、噂の編入生の一人に手の平一枚で受け止められた。
そして。
「……俺とリア、今どっちを狙った?」
こちらが間違いなく兄の方だろう。
抑揚のない声音と、冷たい輝きを放つ切れ長の目は抑えきれない殺気を孕んでいる。
イプサムの家系は、代々高名な研究者を何人も出している所謂頭脳派一族で、現に父も年の離れた兄も一族で立ち上げ、世間にも割と知られている魔法研究所で、それなりの地位で働いている。
一方で俺は小さい頃から剣術や戦闘魔術を好み、将来的には討伐師団に入団するんだと豪語していたから、親族達には異端者だと見られていた。
しかしそんな一族であっても、これまでここカルフィール魔法学校へ入れた者は一人もいなかった。
おれがココに入学する事が決まったのを知ると、親族達は手のひらを返したように俺を褒め称え、これで研究所も安泰だと勝手に勘違いをして喜んでいるようだが、どこの学校を出ようと討伐師団に入団する、という俺の決意は変わっていない。
だが実際、召喚士で討伐師団に入団する者は稀だ。
ましてこの学校の卒業者ともなれば、将来はエリートコースが約束されたようなものだ。
それを蹴ってまで、あえて危険な魔物と戦う職に就くなどしないのが、まあ普通だろう。
故にこのエリート学校の連中も、皆総じて高い魔力を持っているが、それを戦闘で使おう等と考える者は殆どおらず、毎日退屈していたのだが…
「…俺の攻撃を片手で受け止めたか。ククッ…これは楽しめそうだな。」
俺はこれから始まるであろう攻防に、上機嫌でカフェチェアから立ち上がりメイン通りの石畳まで進み出た。
そして。
予想通り、息付く間も無い程激しい攻防が始まった。
…目の前のこの男(ライナー)は、これまでの俺の退屈を蹴散らすような素晴らしい攻撃を繰り出してくる。
容赦も加減も一切なく繰り出される攻撃に、体に傷が出来る度、俺は覚えのある感覚を呼び起こされ、興奮していた。
そう、この感覚はアレだ。
実家のあるカルフィン南部の街・メルロウの討伐師団と有志参加により、年数回行われる魔物一斉討伐。
魔物を倒すまでの息付く間のない攻防、打ち取った時の快感と興奮を味わうため、帰省時に日程が合う時は必ず参加している。
その時に感じる、実戦で命のやり取りをする時の興奮だ。
純粋に戦いを楽しみたいが、時折目に入るカルラの渋い表情や場所等を考え、どうしても戦いのみに集中できない。
そんな俺の一瞬の隙をついて放たれた氷の刃に、避けきれないと判断した俺は、相当のダメージを覚悟の上で、防御姿勢を取った。
次の瞬間。
あの強烈な気配と共に、俺に当たるはずだった魔力が飛散された。
そうして光の中から浮かび上がって来たのは、
小さく華奢なラインと自ら発光しているかのように輝くプラチナブロンド。
こちらからは後姿しか見えないが……
………精、霊……なの、か?
「………ライ、ナー…。…こわ、い、おかお……だめ…。」
…!!
……バカなっ…精霊が話すはずがない。
…という事は、コレが噂の弟、か。
その弟は兄に抱き上げられ、何かを話した後、ふ、と視線を上げ俺を見た。
!!!
その凛と澄んだ紫の瞳と目が合った瞬間の衝撃はどう表現して良いか分からない。
とにかく目が離せない。
…“コレ”が本当に人間、なのか……?
「……ライ、ナー……あれ、…は、わるい、……ヒト…?」
俺を無表情に見つめたまま、そのイキモノが兄に問いかける。
攻撃対象に自分が入っていた事を伝えた兄に対し、そのイキモノ…リア・クランツが発した言葉に、俺は更なる衝撃を受けた。
「…ラ…イナー、……えっと、ね、……にんげん、が、…リアのこと、…きらい、…は、ふつう。……いっぱい、たたく?…も、…ふつ、う…だよ…?」
……こんな生き物を傷つけるような人間がいるのかっ!?
それはかつてない程の憤りだった。
余りの怒りに体が震える。
…いや違う!
…俺もその一人だと認識されている!
その事実に行きついたとき、俺は初めて己の浅はかな行動を後悔した。
そのまま動けない俺に対し、兄が何かを言うとそのまま去って行く。
……待ってくれ!俺に話をさせてくれ!
しかしそれらの言葉は一言も俺から発せられる事がないまま、辺りは何もなかったように静けさが戻っていた。
異端者との遭遇
◇Side:Firando Ipsum END
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