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第4章ー36 静観者 ◇Side:カルラ・ヤギュー
クランツ兄弟が去り、あれだけ破壊された石畳みやカフェの一部も何事も無かったように元に戻された。
カルラは理知的な黒い瞳を眇め、顎に手を当てながら今起きたことを反芻する。
そもそもあれだけの魔力を放出して撃ち合っていながら、一人として教師がここへ来なかった事自体が不自然だ。
一番近くにいるはずのカフェの店員さえ、何も言ってこなかった。
…となると考えられる事は、あの上位聖獣と思われる召喚獣が結界を張っていたとしか考えられない。
しかしそうなると二重結界の定義に当てはまり、あの擬態した姿が解けるはずだ。
…魔力には波動がある。
波動は魔導士一人ごと、召喚獣ごとに皆異なり、二重結界の定義とは、魔術における基本定義で“同じ場所に同じ波動で張られた結界は、範囲が大きい方もしくは後から張った方が優先され、それ以外の結界は消滅する”という物だ。
…だとしたら、結界のどちらかをクランツ兄弟、もしくはもう一体の聖獣が張ったという事になる。
…しかし兄の方はフィランドに攻撃する事だけに集中しており、そんな事まで考えられるような状態には見えなかった。
かと言って、もう一体の聖獣がやったにしては、あの聖獣から感じる魔力では辻褄が合わない。
後はあの弟、という事になるが…
「…弟、か。」
リア・クランツ。
確かに噂通り、人形の様な愛らしい容貌をしていた。
そして。
兄のあの過保護振りと、兄弟の会話から察するに、“外”では相当辛い目に遭って来たようであるが…
あの兄弟に関して理事長からもらった情報は、“王立魔術研究所の顧問”からの推薦である事と名前と年齢、あとは召喚士であることと、程度のものだ。
家族構成や、彼らがどんな環境で育ったのかも知らされていない。
カルラはそこまで考えると軽く目を閉じ、ふぅ、と一つ息を吐く。
「…考えても分からない事は捨て置くに限る。」
自分に言い聞かせるように呟き、まずは呆けたまま時間を止めてしまっている従兄を何とかするべきだろう。
呆けている理由も何となくわかるが、今はこれ以上“使えない人間”を出したくは無い。
「フィランド!そろそろ戻ってこいっ!」
静観者 ◇Side:Kalula Yagyu END
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