51 / 163
第4章ー37 みんな一緒
あの後、ライナーはリアを抱いたまま無言で寮まで戻って来た。
自室に入るとそのまま寝台へリアを降ろして押し倒すと、その小さな顔中に幾つものキスを落とす。
「…リア、リア……」
顔の横あたりに置かれたリアの細い指に己の長い指を絡め、反対の掌ではリアの柔らかな頬を優しく撫で、唇をなぞっては啄むキスを落とす。
「……ん、……ライ、ナー……ど、した…の?……いた、い…の?」
リアは縋り付くように触れるライナーの、今は黒く擬態された長い前髪に、そっ、と触れながら、ライナーが唯一擬態していない青空のような瞳を見つめる。
「…いや、リア。…すまない。大丈夫だ。」
リアがその美しい紫の瞳に不安を映しているのを見て、ライナーは我に返り、リアと額を合わせた。
「…よ、かった……。…あの、ね、……ライナー、…さっき、の、…ふつうの、ヒト、…も、…おこら、ない…で、…ね……?」
「……ッ。……ああ、安心しろ。それに、アイツとはもう関わらない。」
…今度顔を見たら、本当に殺しちまいそうだからな…
ライナーはフィランドに対する憎悪を押し殺し、リアの頬を撫でながら、優しく微笑んだ。
「だがリア、…一つだけ俺のお願いを聞いてくれるか?」
「…ライナー、の…おね、がい…?……なぁに?」
珍しいライナーからのお願いにリアは、きょとん、と目を大きくしてライナーを見つめる。
「…リア、実は俺、今日リアと離れて凄く寂しかったんだ。もう一人は我慢できない。…明日からは俺も同じ教室で一緒に勉強してもいいか?」
辛そうな表情を作り、リアに訴えるこの理由がライナーの本音では無いが、リアを傍で守る為、一番有効な理由を上げたのである。
「………ライ、ナー、……さみ、し…かった……?……リアも、いっぱい、…さみしかった、…の……。」
リアはライナーのいない心細かった時間を思い出したのか、大きな瞳には涙が一杯に溜まり、今にも零れそうだ。
「…俺もだ。…リア、明日からは俺も…ずっと一緒にいような。…リア…」
本音を言えば、もう個人授業に切り替えて欲しかったが、それはもう少し様子を見てからにする事にする。
ただあんな人間がいるとなっては、もう例え1分たりともリアから離れている事など出来ない為、ライナーはその旨、理事長に直談判に行く事を決意した。
もちろん、YES以外の返答は受け付けるつもりはない。
どんな事をしても言う事をきかすつもりである。
「…ん。…ライナー、いっしょ。……シェラ、エスティ、も。……みんな、いっしょ……リア、うれし、い……」
欲しかった答えが聞けたライナーは、零れそうなリアの涙を唇で受け止めながら、米神にキスをしてそのまま強く抱きしめた。
そうしてしばらく2人、べったりくっ付いたまま、離れていた約2時間を埋める様に、お互いの存在を堪能した。
少し落ち着き、ベッドからソファに移動した2人は、リアはいつものライナーのお膝抱っこで横向きに座っている。
「…そう言えば、リアはどうして泣いていたんだ?」
ライナーは三つ編みにしていたリアの髪をほどき、優しくブラッシングしてやりながら問いかける。
心話でライナーを呼び出したエスティは、「とにかくリアが泣いているから来て」としか伝えなかったので、ライナーはいまいち状況が掴めていなかったのである。
「…リア、も、…わかんない……。…リア、……すいしょう、さん、……ひかって…?…おねがい、したら、……ぱりんって……。」
『…人間如きが造ったひ弱な道具で主の力を測ろうとする事自体、間違っているのです。…全く!あの人間…ほんの一部だけとは言え、何の為に主の事を話したと思っているのでしょう…!』
それまで黙っていたペガサスだが、いったん話し出すとその時の怒りが湧き上がって来たのか、一気に捲し立てている。
そのおかげで何となく事情はわかったが…
「…怖えぇぇ…。」
「コワイにゃ…」
「…しぇ、ら……?」
先の2人は無視だったが、リアの呼びかけにだけは反応し、ペガサスは、はっとしたように一瞬で怒りを治めた。
『…とにかく主、あなたは何にも悪く無いのですから気にしてはいけませんよ。むしろ、一人でとても良く頑張っていました。…流石は我が主です。あなたは本当に私の誇りです。』
先程までの怒りが嘘のように、理知的かつ凛とした雰囲気を作り出すペガサスに、
「なぁ、エスティ。…ペガサスって…アレ、だよな……」
「…にゃあ。アレ、だにゃ。」
取り残された2人はほんのちょっぴりだけ、…上位聖獣って……と思ってしまうのだった。
みんな一緒 END
ともだちにシェアしよう!