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第4章ー46 守護者達
◇Side:シェラサード
「リアッ!?どうした、リア!?」
「にゃあ!リア~!どうしたニャ!」
突然くたりと意識を失った主に、イプピアーラの子とエスポワールが動揺している一方で、私は主の精神が、主の奏でた音色に乗って“はざまの世界”へと旅立つ気配を感じていた。
…という事はこの奇妙な道具は“ユーグの世界の一部”なのかも知れませんね……それにしても、この様に一方的な仕掛けを残して行くとは……イプピアーラの子ではありませんが、私もファルシオンの事は好きになれそうもありません。
とは言え、いずれ主はあの世界へ行かねばならぬ身。
…今日の出会いもまた、間違いなく主の運命だったのでしょう。
取り敢えず今は、イプピアーラの子とエスポワールを落ち着かせなければなりませんね。
『……案ずることはありません、2人とも。…このような一方的な仕掛けを残したファルシオンについては嫌悪感を禁じ得ませんが、主の精神は今“はざまの世界”……すなわちユーグの世界へ行っているのでしょう。あの世界で主が害される事はあり得ません。』
…そうは言ったものの、王を失った状態のユーグの世界は、色の無いとても寂しい世界になっているはず。
愛しい主が、1人で泣いていない事を祈って待つしかありません。
Side:シェラサード END
◇Side:ライナー
「ユーグの世界っ!?」
最近やっとシェラという愛称で呼ぶことに慣れたペガサスの、驚くべき発言に、俺はここへ来たことを心底後悔していた。
そこは、リアがいつか必ず行かなければならない場所だという事は分かっているし、当然俺も一緒に行く覚悟でいた。
おそらく家族達も全員、俺と同じ覚悟を持っているはずだ。
なのに…!!
例え精神だけであったとしても、そんな場所へリア一人で行かせるなど……!!
…その原因が“コレ”にあると言うのなら…
「ルピタス、長い間コレを守り続けてきたあなたには申し訳ないが、リアが無事に目覚め次第“コレ”は破壊します。」
『……そんな…!待ってください。確かに彼は人の子であり、あなた方が信用できないのは分かります。…ですが父に伝え聞いた彼のお方は、意味もなくこの様な仕掛けをするような者だとは思えません。…きっと何か理由があるはずです。』
言い切った俺を驚くように見つめ、そして諭すルピタス。
「……だとしても。俺にとっては何よりリアが最優先です。コレがリアを一人連れて行ったというのなら、コレは俺にとって悪魔の道具でしかありません。」
『イプピアーラの子、それは早計です。…それに“ソレ”は、おそらくユーグの世界の一部。だとすれば、ユーグもしくは主以外が破壊する事など出来はしないでしょう。』
「そんなっ……!!…………くそっ!……リア……!!」
意識の無いリアの閉じられた瞳から涙が流れるのを見た俺は、リアの小さな体を強く抱きしめた。
きっと泣いているだろうリアに、一人じゃないと伝える様に。
Side:ライナー END
そうしてライナーがリアを抱きしめて暫く経った時、リアがその手に持ったままであった“オカリナ”が、ふわりと輝いた。
直後、リアがゆっくりと目を開く。
「…リア!」
「リア~」
『主…』
「…………らいなー、…えす…てぃ、……しぇら…」
一人で余程怖い思いをしたのだろう。
不安に揺れる瞳からは涙が次々と零れ出す。
「…リア、リア、…一人で頑張ったな。…一緒に行けなくてゴメンな、リア……」
リアをぎゅっと抱きしめるライナーに、リアも縋り付くように抱き付く。
「……ひっく………り、あ、……こわか、った……ひっく………らい、な……しぇら……えす、てぃ、…いなく、て……ひっく………りあ、ひと、…り……」
『……主…』
「…りあ…にゃ……にゃあ…泣かないで、にゃ……」
ペガサスはその羽でリアを抱きしめているライナーごと包み、エスティはリアの小さな手を一生懸命舐めて慰めている。
その横でルピタスは、過酷な運命を持つユーグの子とその守護者達を、目に焼き付ける様にじっと見つめていた。
守護者達 END
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