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第4章ー47 イプピアーラ
その日の夜。
リアとライナーの自室、バスルーム。
ライナーはリアを背後から抱っこした状態で浴槽に浸かりながら、今日の濃い一日を思い返していた。
自身の始祖につながる聖獣イプピアーラ・ルピタスとの出会いとその後のファルシオンに関わる事件を思えば、その前にあったあの人間との一戦など、取るに足らない出来事だったと思える。
それに明日からはこれまで通りリアを傍で守ってやれる為、学校生活に関してはそんなに心配する事はないだろう。
問題は…
そこまで考えるとライナーは、ふう、と無意識に大きく息を吐き出した。
その拍子に、いつもリアを喜ばせる為に浴槽の湯を魔力で操り作ってやっている、ペガサスやケット・シーの形が崩れ、元の湯に返ってしまった。
「……らい、なぁ………?……つかれ、…た…?………も、……おふ、ろ…でる……?」
くるりと振り返り心配そうに聞くリアに、その時初めてライナーは魔力を止めてしまっていた事に気付いた。
そうしてじっ、と見上げるリアの小さく柔らかい体を後ろからギュッと抱きしめ、その頬に自分の頬を寄せた
「いや、大丈夫だ。…でも今日は色々あったからな。リアも疲れただろう?…そろそろ出るか。」
そう言ってライナーはリアの頬にキスを一つしてから、リアを抱いたまま立ち上がり少しだけ魔力を開放する。
すると体は勿論、濡れた髪に付いていた水分が一瞬にして弾かれ、浴槽に戻って行った。
洗面所に出るとリアを降ろし、備え付けのリネンの中からリアが好きな下着を選んでいる間に、ライナーは自分の着替えを済ませる。
「…りあ、きょう、…コレ……する」
そう言って少し元気が出たリアが嬉しそうに穿いたのは、ウサギのアップリケがついたパンツだった。
ライナーはその上から淡いブルーのシンプルなネグリジェを頭から被せてやり、リアの着替えも完了だ。
既にとても眠そうなリアは、今日はペガサスの「お話」を聞く間も無く、ベッドに入ったらすぐ寝てしまうだろう。
案の定、すぐに寝てしまったリアの小さな頭を優しく撫でてやりながら、ライナーはペガサスを見る。
「…シェラ。…聞いてもいいか?………ルピタスは…」
『…長くは無いでしょう。ユグの薄い人間界で主を持たない聖獣が生きるには、自らの生命力…つまりは魔力を削るしかありません。地精霊達の話ではここ十数年は眠りについている事が多かったようですし。…700年ですか。…よく持ったものです。』
「……。」
それはライナーの予想通りであった。
リアの前で不用意なことは言いたくなかった為聞かなかったが、ライナーはルピタスが“700年”待っていたと言った時から不思議に思っていたのだ。
人間界で主を持たない聖獣がそんなに生きられるものか?と。
聖獣の寿命はランクにもよるが、一般的にはとても長い。
もちろん病気やケガで命を落とす事もあるが、エスティのような下級聖獣でも1000年位はある。
上位聖獣に位置するイプピアーラならば、3000年位の寿命はあるはずだが、それはあくまで幻獣界で暮らしているか、主がいる場合だ。
『…そして彼の者は最後の願いとして、幻獣界への帰還を私に嘆願して参りました。』
『…ペガサス様、…どうか私を幻獣界に送ってはいただけませんか?…最後にもう一度、あの美しい景色をこの目に焼き付けて…逝きたいのです。』
魔力が尽きかけ、今にも泉に溶けて消えてしまいそうだった同胞の願いをすぐにでも叶えてやりたいとは思ったが、先日初めて「死」を経験したばかりの幼い主の事を考えると、ペガサスはリアにルピタスの事をどう説明して良いか分からなかった。
いずれにせよ、幻獣界の扉を開くとなると大事になるため、ここでは無く一度マルシエに戻り、そこで行う方が色々安全だというのもあり、リア達の学校が休みになる明後日まで待つよう指示し、神殿を後にした。
もちろん、あの過保護な家族達が全員揃っていれば、主の心の負担もかなり軽減されるという理由も大きい。
『2日後、一度マルシエに戻りましょう。』
ライナーもそれが最善だと思っていたため、ペガサスの提案に、頷いたのだった。
イプピアーラ END
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