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第4章ー49 異端者・再び-2 Side:フィランド

「お前は…ライナー・クランツッ……!!」 この魔物に囲まれた最悪の状況で、緊張感のない挨拶をして振り向いたのは、身の丈よりも長い三叉槍を無造作に肩に担いだ、あのライナー・クランツだった。 「…ほぉ。その傷でまだそんなに叫ぶ元気があるとはな。だがその腕の傷、ガーゴイルにヤラれた物だろう?お前はかすり傷だと思っているようだが。…その腕、今すぐ切り落とすか余程の浄化をしない限り、穢れが全身に廻って、死ぬぞ?」 そう言われ、明らかに血が溢れて激痛を生んでいる脇腹の傷では無く、左腕をかすめただけだと思っていたその傷を見ると、異様な黒ずみが、傷の周りから広がり始めていた。 「……!!」 「まあ、その内教師達が来るだろうから、それまでに毒素が全身に回らない様、せいぜい大人しくお祈りでもしておくんだな。」 感情の込もらない声で淡々と言いながらも、ライナー・クランツは三叉槍で次々とトロールを一撃で仕留めていく。 ……強い。 魔物の群れと遭遇してからまだ10分と経っていないが、俺はその間、四方からの一斉攻撃をかわすので精一杯で、魔物1匹にすら致命傷は与えられなかった。 それどころか、避けきれずに受けた傷も多数あり、特に右脇腹は魔術で何とか止血はしたが、肉はえぐり取られ、激痛をもたらしている。 それに対しこの男は。 次々放たれる攻撃を躱すでもなく全て受け止め、あるいは跳ね返し、たった2~3分の間で既にトロールを3匹も倒している。 しかも俺と話をしながら、片手間に。 痛みと失血で意識が朦朧とする中、俺はライナー・クランツのその鮮やかな戦いぶりを少しでも長く見ていたいと、必死に意識を繋ぎとめていた。 しかしもう駄目だと思った時、俺は学園の結界ラインぎりぎりに、あの魂を揺さぶるような“紫”の気配を捉えた。 …ここを突破されたら、あの“紫”に害が及ぶかも知れない…そう思った時、俺は生まれてはじめて「楽しむため」ではなく、「守るため」に戦った。 昨晩から休みもせず戦い続けて消耗している中、このレベルの魔物の群れに一人で挑むなど、はっきり言って自殺行為だと冷静な自分が警鐘を鳴らす一方、例え1秒でもあの“紫”に危険が及ぶのを遅らせる事が出来るなら、との思いの方が強かった。 良く考えれば、あの強烈な気配を持った上位聖獣が傍についていて、紫…リア・クランツに危険が及ぶことなど無かっただろうが、それでも“俺が”そうしたかった。 …だが結局このザマだ。 「……カッコわりぃ…」 自嘲しながら呟き、俺は今度こそ意識を失った。 異端者・再び-2 Side:Firando Ipsum END

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