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第4章ー51 癒す者-1

リア達は学園の結界ライン手前30m程の所に来ていた。 例によってリアは、ペガサスの力で視界や音、匂いなどを制限する結界の中で大切に守られているため、その瞳に直接魔物の姿が映る事も無く、ライナーが黒いもやもやした物に魔術を放ち、トライデントを舞うように扱っているようにしか見えていない。 『主、ほらイプピアーラの子は強いでしょう?心配する事はありませんよ。すぐに魔物を倒して戻って来ますからね。』 ペガサスがその大きな翼を腕のように使って、リアを包み込むように抱きかかえながら、優しく諭す。 「リア、大丈夫ニャ! ライナー、とっても強いニャ!」 リアの細い肩に乗っているエスティも、リアの頬に顔をすりすりしながら一生懸命リアを励ましている。 一方のリアは、ライナーの無事な姿を見て取り敢えずは泣き止んだものの、ペガサスにしがみ付き、不安気に瞳を揺らめかせながらライナーの戦いを見つめていた。 そんな中、ライナーが何故か突然トライデントを魔物の群れに投げ入れると、一度魔術を放ったあと、きっちりトライデントを回収してからこちら側へゆっくりと帰って来た。 その様子を一心に見つめていたリアは、ライナーがこちらを見て両手を広げたのを確認すると、慌ててペガサスに降ろしてもらい、一直線にライナーの元へ駆け寄り抱き付いた。 「……ライ、ナー…!…ひとり、…だめ…っ……ひっく。……リア、…おいて、…いかな、い…で……ひっく……」 しっかり抱き上げられたリアは一生懸命訴えながら、ライナーにぎゅう、としがみ付いていると、安心感から止まっていた涙がまた溢れ出す。 「…リア、ごめんな? …ほら、リーア? …そんなに泣くな。 俺はちゃんと戻って来ただろう? 今日はお帰りなさいのキスはしてくれないのか?」 リアがキスをしてくれないと、俺もただいまのキスができないだろう?と、優しく頭を撫でてやったり、小さな体をギュッと抱きしめたりしながらライナーはリアをあやす。 もちろんこの間にも、教師達は魔物の群れと激しい戦いをしているし、フィランド・イプサムが危険な状態なのも変わっていない。 一方、マークとマジェス・リード、ハーディ・ロダの三人は、トロール7体、ガーゴイル6体と向かい合っていた。 マークは当面の攻撃と防御をマジェスとハーディに任せ、少し離れた場所に魔具で召喚陣を描き、詠唱に入っている。 詠唱途中、まさか近くにいるとは思っていなかったリアの姿を視界に捉え、マークはあの子なら傷ついたフィランドを放っておくような事はしないのではないかと思い、何とか彼にフィランドを見つけてくれと願う。 だがその願いも空しく、リアは未だ視界制限の結界の中だ。 ライナーの腕に抱かれたリアがようやく落ち着いた頃、マークの詠唱が終わり、召喚陣からは巨人・ネフィリムが現れた。 ネフィリムは、イプピアーラやサテュロスと並ぶ上位聖獣で、巨人の名の通りその大きさはトロールの倍以上もある。 「…あれは……巨人…?」 呟くライナーの腕の中で、リアも初めて見る巨人の大きさに目を真ん丸にしている。 『…あれは巨人族のネフィリムですね。巨人族が人間に使役されているのを見たのは私も初めてです。』 「…へぇ。まさかそんな上位聖獣と契約していたとはな。…まぁ、ソコは流石と言うべきか。」 ネフィリムはちら、とリアの方を見てから魔物の群れへと進んで行く。 『ユーグノ、コ。…アルジノ、ネガイヲ、カナエテホシイ。…ソコノ、ニンゲンヲ、タスケテヤッテクレ。』 聞こえて来た声に、リアは戸惑う。 「…にんげ、ん…?」 視界を制限されているリアには魔物同様、“人間”の姿も見えていない。 リアの疑問に気付いたライナーが、慌てた様にリアを抱きしめ、ネフィリムを睨み付けながらリアに言い聞かす。 「…リア、大丈夫だ。お前は何も気にしなくていい。」 だが一歩遅く、「どこにいるんだろう?」とリアが不思議に思った瞬間、ふわっ、と視界が開け、何人もの人間が目に入ってきた。 ペガサスの力は全てリアの願いが優先される。 よってリアに対して使った目隠しのような魔術は、リアが拒否しない限りは、ペガサスやライナーが望んだ通りの効力を発するが、逆にひとたびリアが“見たい”と望んでしまえば、その効力を失ってしまうのだ。 そうしてリアは見つけた。 真っ赤に染まった人間を。 そして再び思い出す赤く染まったキリエの姿。 「……!!…にぃ…!」 癒す者-1 END

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