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第4章ー52 癒す者-2
「……にぃ、にぃっ…!……やぁ…!!…らい、なー、……はなし、てっ!…にぃ、が……にぃっ……!」
ライナーに抱かれた状態で、フィランド・イプサムに向かって一生懸命小さな手を伸ばすリア。
「…ッ、リア、コラ落ち着け!…よく見ろ、アレはキリエ兄じゃない!」
リアに対しては滅多に声を荒げる事のないライナーの怒声に、リアはビクッと肩を震わせ大人しくなり、潤んだ目でライナーを見上げた。
「……ふえっ……らいなー……、…おこっ…た……?」
「…すまないリア、驚かせたな。怒った訳じゃ無い。でもほら、よく見てご覧?あれは人間だ。キリエ兄じゃないだろう?」
ライナーはリアの瞼に優しく口付け、浮かんだ涙を拭ってやりながら、「だからお前が気にする事は全く無いんだ」と言い聞かす。
「……でも、ねふぃりむ、…たすけて、…いった…よ…?」
その人間が“誰か”までは気付いていないようだが、仮にアレがアイツだと分かっても、リアはきっと助けてしまうだろう。
……チッ……あの巨人……
ライナーは心の中で毒づいていた。
リアが助ける=ペガサスの力を使う、という事だ。
確かにペガサスであれば、ガーゴイル程度の魔物から受けた闇の傷ならば浄化も出来るし癒す事も可能だろう。
しかしそれはリアの中のユグを大量に使う事になる。
ユグの塊のようなリアであるが、瀕死の者を回復させる程のユグを奪われれば、その体にかかる負担は大きく、回復にも時間がかかるはずだ。
ライナーにはリアにそんな負担を強いてまで、あの人間に助ける価値がある等とは到底思えない。
しかし。
『…あきらめなさい、イプピアーラの子。主の願いを叶えるのが我らの役目です。』
ペガサスの言葉に、ライナーは諦めた様に大きく息を吐くと、不安そうに見上げるリアの額にキスを一つ落とした。
「…わかった、リア。…その代わり無茶は駄目だ。あれだけの傷だ。全部きちんと治さなくていい。そんな事をしたらお前が倒れてしまうからな。…あの黒い影だけ取り除いてやれ。後の事は隣にいる人間達に任せるんだ。…いいな?」
「…ん。…わか、った……」
そうしてリアが納得したのを確認すると、ライナーはフィランド・イプサムへ向かい歩き出した。
癒す者 2 END
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