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第4章ー53 癒す者-3

教師達の手により、結界の内側へ連れて来られたフィランド・イプサムだが、回復系魔術のスペシャリストとも言えるイグナー・セレスの力をもってしても、状況は悪化するばかりであった。 特に右脇腹の傷は肉ごと抉り取られたような酷い物であり、フィランド自身が施した止血魔法の痕跡はあるが、未だ出血している。 再度イグナーが止血魔法及び回復魔法を施したが、何故か非常に効きが悪い。 フィランドの体自身が回復を拒んでいるようですらある。 それに左腕の黒ずみがどんどん広がり、今では左手全体と肩にまで到達している。 「……くそっ、一体どうしたら……!」 その隣では一時召還タイプの召喚士、ヘイレン・クレイバーが癒しの精霊を召喚する為、詠唱に入っている。 しかしこの汚染されたユグと、魔物による邪気が多いこの環境が、精霊達を遠ざけているのか、召喚範囲を広げて見ても、中々捕まらない。 一時契約型召喚士と契約型召喚士との大きな違いは、“召喚陣”を使うか、“捕獣陣”を使うかという事だ。 契約型召喚士は“召喚陣”を使い、幻獣界に住んでいる聖獣や精霊を呼び出して召喚獣とするのに対し、一時契約型召喚士は“捕獣陣”を使い、人間界にいる聖獣や精霊を一時的に捕らえて使役する。 捕獣陣は召喚士のレベルが高ければ高い程、広範囲に描くことが出来るうえ、魔力の高い聖獣や精霊を使役する事が出来るのだ。 その高位の召喚士であるヘイレン・クレイバーをもってしても、捕獲すら出来ないということが、どれだけ今の状態が異常事態なのかという事を教師達に知らしめる。 教師達が焦燥に喘ぐ間にも、フィランド・イプサムの体はどんどん冷たくそして、黒く変色してゆく。 そんな二人の教師の元へゆったりと歩いて来たライナー。 「……どけ。…もう何をやっても無駄だ。そこまで穢れが廻ったら回復魔法も効かないからな。…だから早く腕を切り落とせと言っただろう?」  !! 「…ライナー・クランツ……」 あちら側で戦っていたはずのライナーがここにいることに困惑しながらも、とても瀕死の人間に対して向けたとは思えない、その冷たい表情と言葉に、教師達は言葉を無くす。 しかし、その腕に抱かれているリア・クランツを見て、教師達は一縷の望みを持つ。  …そうだ、この子の上位聖獣なら……!! 「……ライ、ナー、…この、ひと、…くろ、い……ね。」 「…そうだな。このままなら持って後30分、ってとこだな。」 「…いた、い……?……しぬ……?」 「ああ。」 瀕死のフィランドを前に、ライナーはともかく、言葉は拙いが、兄以上の無表情で事実を淡々と話すリアにも、教師達は驚いた。 「そんなっ!…リア君、君なら…君の召喚獣なら何とか出来るんじゃないのかい?」 縋り付くように訴えるイグナー・セレスにライナーはイラッとしたが、今は人間の姿がリアにも見えている為、先程マークにしたような攻撃は何とか思いとどまった。 そんなやり取りの中、リアはライナーの腕の中でじっ、とフィランドを見つめている。 そうして隣にいたシェラを振り向いた。 「……ねふぃ、りむ、の……おね…がい、…シェラ、できる…?」 『……それが主の願いなら。…ですが主の負担になる程の力を使うのは駄目です。…いいですね?』 「……ん、シェラ、…おねが、い……」 リアの言葉を聞いたペガサスは光の擬態を解き、全き姿を現した。 教師達はその神々しい姿を茫然と見つめている。  …まさか真の姿のペガサスが見られるとは……!! 見とれている間にフィランド・イプサムの体は浮き上がり、その周りに不思議な方陣が描かれると一気に光を放った。 あまりの眩しさに誰もが目を閉じ、再び開いたときには、光に焼かれてトロールは全て消滅し、ガーゴイルの多くも地に落ちていた。 地に降ろされたフィランドの体からは穢れが抜け、あの目を覆うようだった脇腹の傷も、薄っすらと赤みを帯びているだけの状態にまで回復していた。 そしてリアは。 ライナーの腕の中で気を失っていた。 癒す者-3 END

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