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第4章ー56 炎の騎士-1
…ここは……なんだ……?
俺は……あの紫の気配を感じて…
…それからどうなった……?
……おやおや、今日は千客万来だねぇ。
…あの子が開いてくれた人間界との繋がりが、まだ切れていないのかな?
……誰、だ…?
…そういう君こそ誰なんだい?
………俺……?…俺は、…………俺は……誰だ?
……あははっ!典型的な人間の反応だね。
でもね、ココは人間が来て良い所じゃない。
…自我が消滅してしまわない内に早く帰った方がいい。
……帰る……どこへ…だ?
…君が会いたい人がいる方へ。
…大丈夫。ココヘ来れたのなら、帰り道も分かるよ。
ああ、そうだ。帰ったらあの子に伝えて。
ホントに時々でいいからオカリナ吹いてねって。
じゃあよろしくね~。
……おい、待てって………お…い…
「!!」
フィランド・イプサムは急な覚醒に頭がくらくらしたが、すぐに意識を失う前の状況を思い出し、周りを見渡して自分の居場所を確認する。
どうやら医務室に運ばれたらしい。
次に自分の体を確認し、どこにも異常がない事に逆に異状を感じて、寝かされていたベッドから飛び起きた。
「……なっ?!……どういう事だ?」
「……目が覚めたのか?…お前は丸2日も眠り続けて…流石に心配したぞ?」
フィランドが驚愕に思わず上げた声を聞きつけ、戦闘部顧問のマジェス・リードがベッドサイドへやって来た。
「…マジェス?…何故俺は助かった? しかも傷痕1つないってのはどういう事だ?」
「…助からないと思っていたのか?」
「……あの傷で生き残れると思う方がおかしいだろう?」
「……まぁな。正直俺も血まみれのお前を見つけて、コレはヤバいと思ったからな。………お前を助けたのはリア・クランツだ。…ああ、正確には彼の召喚獣、ペガサスだな。」
「!!」
「…それとお前にはライナー・クランツからの伝言がある。…お前あの兄弟に手を出したろう?……今後一切弟には近づくな、だそうだ。」
リア・クランツの名を出した途端表情が変わったフィランドを見て、マジェスは釘を挿すように続けた。
「あの兄貴の方の戦いぶりを見たか?ありゃ間違いなく実践を山ほど積んでやがる戦い方だ。…あいつとお前では戦い方に決定的な違いがある。」
「……俺が遊びで戦っているって言いてぇのか?」
「お前は人を殺せるか?」
「……!」
「…どういう環境で育ったのか知らんが、ライナー・クランツは間違いなく戦士だ。敵だと認識すれば、例え相手が人間であっても何の躊躇いも無く殺す。ハッキリ言って危険な男だ。…悪いことは言わん。…もうあいつ等には近づくな。」
「…弟の方は?…リア・クランツは何て言っていた?」
「…お前は!…今俺が言った事を聞いていたか?」
フィランドの己の警告を無視した返答に、マジェス・リードは呆れた声音で問いただす。
「…もう遅い。」
…そうだ。
もう遅い。
俺は決めたのだから。
あの“紫”の、…リア・クランツの騎士になる事を。
炎の騎士-1 END
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