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第4章ー57 炎の騎士-2

今はとにかくあの“紫”…リア・クランツに会いたかった。 その一心でフィランド・イプサムは、寮監のハーディ・ロダからクランツ兄弟の部屋を聞きだし、召喚フロア202号室の前に来ていた。 ただしリアへ行き着くには、あのライナー・クランツと言う大きな難関が待ち構えている。 それも重々承知の上で、必要であれば目の1つ、腕の1本でも差し出す覚悟を持って、フィランドは部屋のベルを鳴らした。  …チリン リビングでウェルザと2日前の“魔物襲撃事件”について話し合っていたサーガは、涼やかなその音に、おや?という顔をして部屋の入り口の方を振り返った。 ウェルザも、202号室にクランツ兄弟が入って以降、先日の様に2人が連れて来ない限り、この部屋を訪れる者はいなかったので不思議そうにしている。 取り敢えず出て来るね~とサーガが席を立った。 「はーい。って、副会長じゃないですかっ!今、超噂になってるんスけど!魔物と戦って瀕死の重傷とか言われてるんですけど?!、…大丈夫なんですかっ?」 「……お前が同室だったのか。……リア・クランツに会いに来た。」 サーガ・リンクスの高いテンションに、流石はルマーシェ・ビランの従兄だと顔を顰めながらも、フィランドはここへ来た目的を口にする。 「はっ?! リアちゃん? なんで副会長がリアちゃん知ってるスか? しかも会いに来たって……??」 “リアちゃん”等とリア・クランツの事を気安く読んだサーガに、若干イラッとしながら取り敢えず中に入れろと、フィランドは混乱しているサーガを押しのけ、強引にリビングへ続く扉を開けた。 「……えっ? 副会長……?」 リビングではウェルザが、まさか自分達の部屋に来るとは想像もしていなかったフィランドの登場に驚いている。 「……クランツ兄弟はいないのか?」 フィランド・イプサムがサーガ達しかいない202号室へ乗り込んで行った頃、マルシエの北、移動陣の始点となる迷いの森の入り口では、今生の別れの様なシーンが繰り広げられていた。 リア達の移動は、ペガサスの移動陣を使う。 初めてカルフィールへ行った時には、移動陣の始点を迷いの森入り口付近に、終点を学校の外の森に結界を張って作っていたが、今回、ルピタスを移動させる際にペガサスは改めて終点を作り直し、現在の終点はルピタスがいた泉の神殿内になっている。 ちなみに、思い余った家族達が勝手にこちらへ乗り込んでくるのを防ぐ為、この移動陣はペガサスしか起動できない。 「……ライナー、リアを頼んだわよ。何があっても守るのよ?」 ライナーの両手を取って、くれぐれも、と言い聞かせるメイテ。 「リア、兄ちゃんの事、忘れるなよ?兄ちゃんは毎日お前の事を思っているからなっ。」 ぎゅう、っと、リアの小さな体を抱きしめるクロス。 「「リア!!」」 「「私(僕)達もスグに行けるよう頑張るから!」」 ヤギの角を半分隠して、今日までの成果を披露しながら、珍しく真剣な表情の双子。 「リア、エスティ。シェラとライナーの言う事をよく聞くんだよ。私達はいつでもお前達を愛している。寂しくなったり、辛くなったらすぐに戻って来なさい。」 「……ん、ありがと。……リア、がんばる…ね。」 「エスティも。リアと一緒にカンバルにゃ!」 健気な2人の姿にキリエは優しく頷き、その他の居残り組は全員、俯き加減で目頭を押さえている。 『……。』 「……。」 『……以前から思っていたのですが。』 「……いや。言わないでくれ、シェラ。」 『……。』 目の前の光景に、何て大袈裟なんだとは思う。 しかし、ともすれば“あちら側”だったかも知れない自分を思うと、ライナーは否定も肯定も出来ずただ小さく溜息を吐いたのだった。 炎の騎士-2 END

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