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第4章ー59 炎の騎士-4

“騎士” 古くは王とその親族、貴族のほか、国の重要人物の身辺警護を担う兵士のことであり、身分ある者達が一番近くに置く兵士である事から、何より信頼できる者が選ばれた。 故に、その殆どが初代より歴代に渡って仕える臣下の中から選ばれ、騎士に任命された者は君主の近衛騎士として、その命を君主の為に捧げるのだ。 しかし近年、魔物の増加傾向から、身分ある者達は少しでも強い者をと求めるようになり、長年の臣下からだけでは無く、一般兵士の中から特に武勇に優れている者を引き抜き、騎士の称号を与えて傍に置く者も増えて来た。 いずれにせよ、騎士は“選ばれる者”であり、騎士の方から君主を選ぶ性質のものでは無い。 しかしこの大陸の最西端にある小さな国、ルクフェイルに限り、他国とは全く逆の騎士が存在していた。 騎士が主を選ぶ国、ルクフェイル。 一般的には「北の大陸唯一の戦闘民族」等と呼ばれ、好戦的で野蛮な民族だと思われているが、騎士の質の高さは世界でもトップクラスだと言われている。 何故なら、最高の騎士を生み出す町があるからだ。 その町は“真の騎士の里”と呼ばれていた。 そこに生まれる者は皆、生まれながらの騎士と言われ、幼少の頃からまだ見ぬ主の為に鍛錬を重ね、ある一定の年齢になると自ら仕えるべき主を探す旅に出るのだ。 その多くはルクフェイル国内で主と定める者を見つけるのだが、 極一部には外国へ行く者もいるという。 ルクフェイル地方において、“騎士”とはその町の出身一族を指す言葉であり、生まれ持ったその力は驚異的なものだと言われている。 しかしその力は全ての者が使える訳では無く、自らが君主と定める者と出会い、そしてその主に騎士となる事を認めてもらえた者のみが発揮できるようになる特殊な力だ。 今は亡き祖母もこの町の出身で、己が主と定め、婚姻と言う最良の形で結ばれた祖父の事を、その驚異的な力で守っていたそうだ。 その祖母の血が濃く出たフィランドは、祖母に連れられ1度だけその町へ行った事がある。 その時はなぜ自分がそこへ連れて行かれたのか分からなかったが、今になって思う。 多分祖母には分かっていたのだ。 自分もまた、主を求めずにはいられなくなる事を。 そして今。 その騎士の一族の血を引くフィランド・イプサムの前には、己が主にと願うリア・クランツがいる。  『………リア・クランツ。俺はお前の騎士になりたい。俺に…お前を守らせてくれ。』 強い瞳でリアを見つめてそう言った、“人間” はっきり言ってリアには、人間が自分を守る等、想像もできない事であった為、言われた言葉の意味が正しく理解できず、ライナーの腕の中で首をかしげていた。 そして。 「……いい度胸だ。」 何もかも承知の上だと言うような強い瞳に、ライナーはフィランド・イプサムを改めて見据える。 目の前の男は初対面のあの時ととても同一人物だとは思えない、まるで違う雰囲気を纏っており、あの魔物襲撃の時に感じた違和感以上に、今のフィランドは強い何かを放っていた。 だからと言ってリアに近付くのを許す訳にはいかない。 雰囲気が違っているからと言っても所詮は人間族。 マルシエを滅ぼした時のように、どんな風にでも偽る事ができるはずだ。 「……。」 「……リア、シェラたちと部屋で待っててくれるか?」 ライナーはしっかりと言い聞かせるとリアを腕から降ろし、自室のドアへ向かってその背中をそっと押した。 「………っ…待ってくれっ!」 部屋で待てというライナーに不安を感じながらも、取り敢えずは言う通りにと、ペガサス達と一緒に自室へ一歩踏み出したところで、フィランド・イプサムが突然大声で呼び止めた。 驚いたリアはビクッと動きを止め、ペガサスに抱き付いた状態で振り返る。 「…大声を出してすまない。…だが聞いてくれ…!……俺は、あの時俺は“お前だから”攻撃した訳じゃない。ただ強い者と戦いたい…あの時はそんな事しか考えてなかった。……だがその愚かな行為でお前の兄を怒らせ、更にはお前にあんな事を言わせてしまった…。本当にすまなかった…!」 そう言って頭を下げるフィランド・イプサムにリアは困惑顔、再度リアを抱き上げたライナーは今にも舌打ちしそうな位イラついている。 同室者達も今のフィランドの言葉で何となく事情を察したものの、かける言葉も見つからず、気まずげに顔を見合わせるだけだ。 炎の騎士-4 END

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