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第4章ー60 炎の騎士-5
誰もが黙り込んでいる中、以外にも最初に口を開いたのは当人でもあるリアだった。
「………あのとき、の。……にんげ…ん…?……ねふぃりむ、……おとも、だち……?」
ライナーの首にぎゅっ、と抱き付き、若干怯えた表情ながらも、でもしっかりとフィランドを見ながら聞いたリアに、ライナーは少し驚いていた。
そして当のフィランドは、リアから自分に向けた言葉を初めて与えられた事により、理屈では無く本能の部分で湧き上がる激しい歓喜に、なお一層確信していた。
“これが己の主である”と。
だが、肝心のリアの質問の意味がつかめない。
「…ネフィリム…?あのマーク・ハプソンの召喚獣の事、…か?」
フィランドの言葉にリアは、こくり、と幼い仕草で頷いた。
…しかし召喚獣と“トモダチ”とはどういう意味だ?
「……ねふぃりむ、…リア、に………にんげん、たすけ…て、…って…いった、よ。」
そこまで聞いてフィランドは、本当に今更だが助けてもらった礼はおろか、自己紹介すらしていなかった己の失態に気付いた。
「……リア・クランツ、そしてライナー・クランツ。…今更だが、俺はフィランド・イプサムだ。この学校で生徒副会長をしている。……そしてリア・クランツ、お前が俺を助けてくれたと聞いた。主と決めたお前に助けてもらうなど大失態だが、それでも俺はお前を守りたい。…お前の騎士になりたい、と言ったのは本気だ。上手く言えないが、俺の中にある特殊な血が、お前が俺の主だと告げているんだ。」
質問とは全く違う内容の返事を返されたリアは、少し困惑しているようでその意味を請うようにライナーを見た。
しかしライナーが何か言うより早く、ペガサスが口を開いた。
『……彼は騎士の里の一族なのかも知れませんね。……あそこの出身者であれば、人間とはいえ、主と定めた者を裏切る事は無いでしょう。……イプピアーラの子、一旦その殺気をおさめなさい。少し話を聞いてみましょう。』
「……。」
ペガサスの言葉を受け、ライナーは気持ちを落ち着かせるように1つ大きく息を吐くと、リアを抱いたままソファに座った。
「……ウェルザ、…すまないがお茶を頼む。」
ライナーとフィランドの気に圧され固まってしまっていたサーガとウェルザだったが、ライナーの纏っていた空気が変わった事により、呪縛が解けたように動き出す。
「……取り敢えずアンタも座れ。」
サーガがフェイトを抱いて3人掛けソファに座り、リーナを連れたウェルザがお茶の準備を始めたのを見て、ライナーはフィランドにも座るよう促した。
ライナーの膝に抱っこされた状態のリアは、ライナーの広い胸にぴとりと頬を付け、口元に小さな手を当てて何か考えている風だったが、決心したように顔を上げてフィランドを見た。
「………あの、ね?……リア、も、ねふぃりむ、……なかよし、なりたいの。」
先程と同じ質問を繰り返すリアは、まるで自分がネフィリムの友達か何かだと思っているような口ぶりで、フィランドは困惑する。
フィランドをじっと見つめるリアの瞳が、ほんの少しだけ期待が込もっているのを感じて、ライナーは苦笑いだ。
リアの中では、ネフィリムが助けて欲しいと願った人間=ネフィリムと仲良し、となっているのだろう。
あまりに素直で無邪気なリアを前に、先程までの毒気をすっかり抜かれたライナーはリアの小さな頭を優しくぽんぽん、と撫でてやる。
きょと、とライナーを見上げたリアは、ライナーが優しく笑っているのを見て、ほっとしたように微笑んだ。
「……ね、ライナー、…ねふぃ、りむ、……くだもの、なに、すきか…な……?」
精霊達からの贈り物を見ながら、好きな物をプレゼントして仲良くなろうという、可愛い考えをしているリア。
そんなリアをライナーは優しく相手をしてやっている。
一方フィランドは、ライナー・クランツのあまりの変わりように驚いていたが、取り敢えずはリアの望む答えを探す方が先決だ。
リアがネフィリムと仲良くなりたいと思っている事だけはわかった。
何とかしてやりたいとは思うが、残念ながらフィランドにもその方法は不明だ。
だが、マーク・ハプソンに言って召喚してもらう位は出来るだろうし、好きな果物は…言葉が話せない召喚獣だけに聞く事ができないので、適当に並べて選ばせればわかる……か?
…と、そこまで考えてフィランドははた、と思いだした。
…そう言えばさっき、リア・クランツはネフィリムが助けてと“言った”と言わなかったか……?
「……。」
先日のライナー・クランツの戦いぶりといい、改めて思い返せば色々聞きたいことは出て来たが、何を聞こうが己がリアを主にと願う思いは変わらないと断言できる。
そんな事を考えながら、フィランド・イプサムはリアとライナーの兄弟にしては仲が良すぎるスキンシップを見つめていた。
炎の騎士 5 END
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