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第4章ー61 炎の騎士-6
ライナー達がソファに座って約5分。
ローズマリーとペパーミントをベースにブレンドしたお茶を淹れたウェルザが戻るまで、フィランドとサーガは特に話をするでもなく、フィランドはぼんやりと、サーガは恍惚とした表情で、クランツ兄弟の熱い?スキンシップを見つめていた。
ライナーが何かを話し、リアの柔らかそうな頬に軽くキスをした所で、ウェルザが戻って来た。
大きなトレーに様々な形のカップが沢山のっている。
明らかに多すぎるカップの数を見たフィランドが、他にも誰か来る予定があるのかを問いただそうとした時。
「…シェラ、…エスティ。」
リアが嬉しそうに己の聖獣達を呼ぶと、宙に浮かんでいた2つの光の玉が消え、聖獣の姿を現す。
1つはペガサスに。
もう1つは子猫のケット・シーに。
初めて見る者からすれば驚愕に値する聖獣達だ。
例にもれず、フィランドも目を見張っていたが、次の瞬間ライナーの膝から降りたリアがした行動に更に驚かされる。
「…んと、こっち、シェラ。…これ、が、エスティ、ね。…いいにおい、………ウェル、ザ、…あり…がと///」
嬉しそうに微笑んでいるリア・クランツは文句なく愛らしいと断言できるが、精霊の様なヒト型では無い召喚獣がカップを使ってお茶を飲む等、聞いたことが無い。
茫然とリアが聖獣達にカップを配る姿を見ていると、フィランドの驚愕を察したサーガは苦笑いしながら説明を入れた。
「……はは。副会長、目が点になってるっす。まあ、アレは驚きますよねえ。俺も初めて見た時はどうやって飲むのか?とかビックリしましたもん。」
「……。」
「飲む姿はもっとびっくりすると思いますよ。」
「…うん。僕も驚いたもの。でも凄く綺麗に飲むんですよ。あ、副会長もこれ、どうぞ。」
途中から会話に加わったウェルザがフィランドにカップを出してから、サーガとフェイト、リーナと自分の分をテーブルに並べた。
そこで思い出したように、テーブル近くに”お座り”したペガサスの隣で床にぺたんこ座りをしていたリアが、子猫のケット・シーを膝に乗せたままライナーを振り返った。
期待いっぱいのリアの瞳に、何を言いたいのかすぐに分かったライナーは、リビングの隅に置いたままになっていた家族から渡された大量の荷物まで行くと、大きな紙袋を1つ持って戻って来た。
「…ほら、リア。」
袋をもらったリアは可愛らしい歓声をあげると、エスティをライナーに預けてウェルザの元へ行く。
「……あの、ね、……メイテねぇ、が、…いっぱいつくって…くれた、の。…ウェルザ、どれ、する?」
紙袋の中には様々種類のスコーンやクッキーが大量に入っていた。
「わあ、凄いね。美味しそう。それならお皿持って来るから、ちょっと待っててね、リア君。」
そう言ってウェルザは何も考えず、ごく自然にリアの頭を撫でた。
撫でてしまってからすぐ、リアに触ってしまった事に、“しまった!”と思ったが、特にリアは嫌がるでもなくニコニコしていたので、ほっと胸をなでおろした。
逆にちょっとドキドキしてしまい、そんな自分を隠すように足早にお皿を取りに行く。
そしてウェルザが持ってきた小皿を配り、自分とリーナ用にスコーンとクッキーを選ぶと、もう一度お礼を言った。
リアが次に行ったのは、座っている場所的にフィランドの所だった。
少し遠慮気味にそっ、と、紙袋を差しだし、
「…どれ、する……?」
と小さく聞いた。
手を伸ばせは触れられる距離にいるリアに、フィランドはらしくもなく緊張していた。
目つきも悪く愛想がない自分の容姿が、子供を怖がらせ泣かせてしまう事はよくあったが、これまでは特に何かを感じる事もなく、あえて言うなら“ウルサイ”と思っていたくらいだ。
しかし今目の前にいるのは、フィランドが焦がれてやまないリア・クランツだ。
小鳥か小鹿の様に怯えやすく繊細なリアを、少しも脅かさない様、そして怖がらせない様、フィランドは自分でも初めて出すような優しい声でゆっくりと口を開いた。
「…随分沢山あるな。…どれがおすすめだ?」
問われたリアはきょときょとした後、困ったようにフィランドではなく、ライナーを見た。
そんなリアにライナーはくすり、と笑う。
正直、フィランドにリアの好きな物等教えたくは無かったが、自分を頼る可愛いリアを無視する事など出来ない為、仕方なく助け船を出した。
「…リアが好きなのは、ナッツが入ったスコーンだ。」
欲しかった答えをリアから聞けなかったのは残念だが、取り敢えずリアの好きな物を1つ知る事が出来たのでよしとする。
「ならそのスコーンをもらえるか?」
フィランドからのリクエストに、リアはこくりと頷くと、
「……これ、なの。」
そう言って、小さなリアの手からはみ出る程大きなスコーンをフィランドの取り皿に置いた。
「ああ、サンキューな。」
「……さん、きゅう……?」
はじめて聞いた言葉にリアが首をかしげていると、
「カルフィール独特の言葉で、ありがとう、って意味だよ、リアちゃん。」
サーガがその意味を教えてくれた。
「……さんきゅう……」
そして言葉を覚える様に小さく復唱したリアをぎこちない笑顔で見つめたフィランドは、
「ああ、サンキューだ。」
ともう一度礼を言った。
その後、サーガとフェイトと配り、シェラは食べないので、ライナーの所へ戻った。
ちなみに、リアとライナーは暗黙の了解で“はんぶんこ”である。
更に、リアとエスティで、“はんぶんこ”にする。
フィランドは、1つのスコーンを嬉しそうに分け合う2人+1匹を見て羨ましいと思ったが、嫉妬心等の負の感情が湧き上がってこないのを不思議に思いながら、リアが好きだと言うスコーンを味わっていた。
炎の騎士-6 END
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