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第4章ー62 炎の騎士-7
「……美味いな。…これをやればネフィリムも喜ぶんじゃないか?」
思わず口を突いて出た風のフィランド・イプサムの言葉に、リアは大きな目を更に開いてフィランドを見た。
くりくりと大きく澄んだ瞳はそれだけでかなりの威力がある。
「………ねふぃりむ、よろ、こ……ぶ…?」
「…!……あっ、ああ…!…あとは、音楽や歌をプレゼントするのもいいんじゃないか?」
そこでフィランドは唐突に思い出した。
医務室で目覚める前に見ていた妙な夢の事を。
薄暗く色の無い世界でどこからともなく聞こえた、その場の雰囲気に似合わない陽気な声。
会いたい人がいる場所へ帰りなさいと言ったあの声は、確か“あの子に伝えて”、とも言っていた。
もうそれは直観だった。
「…オカリナ、吹けるのか?」
!!
フィランドの言葉に反応したのは、リアよりもライナーの方が早かった。
「……お前はアレを知っているのか?」
「アレが何の事かは知らん。……が、不思議な夢を見た。
その夢の中で、誰かが、時々でいいからオカリナを吹いてと、あの子に伝えて、
…と言っていた。
…これは俺の直感でしかないが、あの夢の声が言っていた“あの子”ってのは、
リア・クランツの事だと思う。」
「……。」
……声、か。
「声」についてはリアも話していた。
…が、いまいち要領を得ず、加えて怖くて寂しい思いをした時の事を思い出させたくなかった為、詳しく聞く事はしなかった。
ライナーはペガサスと心話しながら、何をどこまで話すか思案していたのだが。
「……おかりな、……ふー、…でき、る…?」
「吹けるかって事か? ああ、吹けるぞ。バアさんが教えてくれたからな。」
それを聞いたリアは、ライナーやペガサスが結論を出すより早く、ライナーを振り返った。
「……ライナー、…おかり、な、…だして…?」
「……リア……」
「……?」
ちょっと疲れたような声を出したライナーに、リアはこてん、と首をかしげてきょと、としている。
…………はぁぁ。
ライナーは大きくため息を吐くと、仕方ないと言うように苦笑いでリアの頭をひと撫でしてオカリナを取りに行く。
そうして繊細な細工がされた小箱を持って来ると、リアをひょい、と膝に乗せ、後ろから抱き込むような体制で箱を開けた。
自然と全員の視線が小箱に集まる。
中に収められたそれを見て、
「これが…」
「”おかりな”……?」
サーガとウェルザは微妙な顔。
そしてフィランドは。
「木製…?……珍しいな。」
金属製や陶器製では無いタイプのオカリナを見たのは初めてだった為、素直に感想を述べていた。
「…お前はコレが何なのか知っているのか?」
「……だからオカリナだろう?…だがルクフェイル以外でそれを見たのは俺も初めてだ。」
「ルクフェイル…?」
「俺のバアさんの故郷だ。中でも特殊な町の出身でな、騎士を生む町としてルクフェイル国内では結構有名な町なんだが、そこの民族楽器がそのオカリナだ。」
『……やはり彼は”騎士の里”に連なる者のようですね。』
「……。」
“騎士”
…それがリアにとって必要なモノなのであれば、家族以外がリアの視界に入って来る事は気に入らないが、ライナーは受け入れるつもりだ。
だが足手まといは不要だ。
そして現段階で、ライナーから見たフィランド・イプサムは、その足手まといに分類されている。
『……イプピアーラの子。あなたが何を考えているか分かります。…だた、彼の一族は主を得て初めて、覚醒するのだと言われています。…少し様子を見てみましょう。』
炎の騎士-7 END
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