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第4章ー65 水の神殿にて-1
「……さて。フィランド・イプサム。……その右目に宿ったモノを開放しろ。」
「………宿ったモノ?…なんだ、ソレは。」
「ソレが何かなど、俺が知る訳ないだろう。……まさか契約者であるお前が知らないのか……?」
2人の会話を聞いていたペガサスがそのルビーの瞳でフィランドじっと見据えて続ける。
『………おそらく無意識下で行われた事なのでしょう。』
「………!!…なんだっ!今のはっ!? …まさか聖獣の声なのかっ?!」
「……その話は後回しだ。……シェラ、わかるか?」
『……ええ。……あなたは聖剣フランベルジュの精霊ですね?一度“そこ”から出ておいでなさい。』
シェラサードが命じてすぐ。
フィランドが右目が熱いと思った瞬間、目の前には不思議な魔力を放つ1本の大剣が浮かんでいた。
「………なんだ、コレは……。」
フィランドが呟くと、その大剣は自身の愛刀・フレイムソードへと姿を変える。
!!!
『……どうやらフランベルジュはその形に擬態して、これまでもあなたの傍にあったようですね。』
「騎士としての覚醒と共に、剣も目覚めたってコトか?」
『あるいは、その逆。…主と出会ったことにより、フランベルジュの方が先に目覚め、この者に騎士としての覚醒を促した。』
「…いずれにしてもお前がその聖剣、フランベルジュの使い手である事には変わりない、って事だ。」
「フランベルジュ……これが……。」
それこそ、歴史書に載る程の伝説の聖剣である。
フィランドもその名前だけは知っていたが、まさか自分がその聖剣の使い手になるなど、想像した事も無かった。
「…最も。今のお前がその剣に見合うだけの実力を持っているかは、怪しいがな。」
「……。」
続けられたライナーの辛辣な言葉にフィランドが何か言うより早く、フランベルジュが光り、そこから聖剣と同じ位の大きさの精霊が現れた。
『……コノオトコハ、ツヨクナリマス。……アルジヲ、ミツケタ、キシハ、ツヨイ。』
褐色の肌にオレンジ色の髪、真っ赤な瞳の印象的な精霊の登場に、リアはフィランドの腕の中で嬉しそうな歓声を上げた。
『コンニチハ、ユーグノ、コ。アルジヲ、エランデクレテ、アリガトウ。アナタノコトハ、アルジガ、イノチヲカケテ、マモルデショウ。』
「……フランベルジュの精霊か?」
『ソウダ。イプピアーラノ、コ。ケイケンヲ、ツメバ、ワガアルジハ、トテモ、ツヨクナレル。』
「…それは楽しみだな。」
リアやライナーは普通にしているが、フィランドからしてみれば精霊との会話とて、これまでの常識を覆す事だ。
その状況に慣れ少し落ち着いて来たフィランドは、改めて伝説レベルの聖獣ペガサスと、伝説の聖剣の精霊、そしてかれらと普通に話すライナーを順に見つめ、最後に腕の中のリアに視線を合わせる。
「…リア・クランツ。聞いてもいいか?」
呼びかけられたリアは、フランベルジュの精霊からフィランドに視線を移してじっと見つめ、
「………リア、よんで?」
「…ッ///……リア。……////」
たった一言。
名前を呼ぶだけで、まるで初恋の乙女の様な反応をしてしまう自分に恥ずかしさを感じる面もあるが、フィランドにしてみればリアと話す喜びの方が大きい。
「……なあに?」
「“イプピアーラノコ”、というのはライナー・クランツの事か?」
その問に答えたのはライナーだ。
「……俺の事だ。………そうだな、そろそろ話を進めるか。」
水の神殿にて-1 END
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