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第5章ー3 新しい日々-2
◇Side:フィランド
俺が騎士として目覚めてから毎日16時~18時までの2時間は、学園外のあの西の森でライナー・クランツとの戦闘訓練の時間になった。
さすがに初めて相対した時のような殺気までは出していないものの、少しでも気を抜けば大けがを負うくらいの攻撃を次々繰り出してくるライナーに、悔しいが俺はまだ剣術でも魔術でも一度も勝てていない。
……だが今日こそっ!!
「……はぁぁぁっ!!!」
「…甘い!」
今日も俺の渾身の一撃をいとも簡単に受け止めたライナーは、一つ息を吐いて訓練の終わりを告げた。
全身汗だくの俺に対し、こいつは緊張を解くように大きく息を吐いた後は涼しい顔をしている。
……聖獣は汗腺もないのか…?
…実際、あの時ライナー・クランツが言った通り、人間でありながらその身に精霊を宿す事になった俺は、それまでの生活が一転した。
聖獣や精霊達と会話(といっても心話だが)出来る様になった事だけでも驚きだが、目や耳も人間では考えられない程良くなり、魔力も格段に上がった。
中でも心底俺を驚かせたのが、“食事と排泄が不要”、という点だ。
…俺達はユグさえあれば生きていける。
そう言ったライナーの言葉を信じなかった訳ではないが、飯を食っていた時間になれば何か食いたくなったし、喉だって乾く。
しかし俺のその感覚は、人間として生活して来た“なごり”で、実際にはただの“気のせい”だと言うのだ。
それを実感したのが、やっぱり腹が減った気がして一人で食堂へ行った時の事だ。
俺は肉食だ。
牛も鹿も兎も大好きだ………ったのに、実際それらの肉を見た瞬間込み上げたのは、かつて感じた事の無い嫌悪感と吐き気。
飛び出す勢いで食堂を出て部屋へと戻った俺を見て、ライナーは人の悪い笑みを浮かべていたが、リアは小さな手で俺の頭や背中を擦りながら、優しく介抱してくれた。
不思議とリアに触れているだけで、とてつもない気持ちの悪さが和らいだ。
これについては、リアは “そういう存在” なのだ、とペガサスが言っていた。
そのリアはと言えば、訓練前にサーガとウェルザの部屋へ預けて来ている。今頃はきっとあいつらの召喚精霊達も一緒になって遊んでいるだろう。
いずれにせよ、今後もしばらくはこのカルチャーショックは続くだろうが、そのおかげでより深くリアを理解できるのだと思えば、苦痛は全く感じない。
6日後の連休にはマルシエへ顔見せに行く事が決まっている。
その時には、ライナー以上に手強いリアの家族達に認めてもらわねばならない。
とにかくまずは高まった魔力や身体能力を使いこなし、連休までにはライナー・クランツから絶対1本取ってやる。
…今にみてろよ。
新しい日々2 END
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