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第5章ー5 新しい日々-4
ここ1か月ほどの間に、カルフィール魔法学校始まって以来の事件が次から次へと起こり、誰もがそわそわと落ち着かなかったが、この数日、やっといつもの静けさを取り戻しつつあった。
しかし生徒会室だけは様子が違うようだ。
フィランド・イプサムがリアの騎士として覚醒し、同時に聖剣の使い手となり、更にはその身に精霊を宿した事により、フィランドは身の内に起こった劇的な変化に慣れるのに精いっぱいで、生徒会の仕事どころでは無かった。
ここ数日でやっと顔を出すようにはなったものの、主であるリアから離れるのが心苦しいらしく、ハッキリって仕事が手についていない。
ルマーシェ・ビランにしても、リアの騎士というポジションを手に入れたフィランドに対し、散々ズルイの何のと文句を言った後は不貞腐れて、こちらも使い物にならない。
ここまで生徒会の仕事をたった一人でやって来たのはカルラ・ヤギュウただ一人なのだが……
……その彼がとうとうキレた。
「………お前達…いい加減にしろ!…今日中に最低限そのデスクにある仕事が終わらなかったら……ここへクランツ兄弟を呼び出して、お前達は与えられた最低限の仕事すらまともにこなせない無能者だと伝えてやろう。加えて特にリア・クランツには、己の騎士に対する監督不行き届きとして厳しく抗議してやる。」
「……なっ!!」
「何を驚くことがある?部下の管理をするのも主の務めだろう?……それにルシェ、俺の抗議はキツいからな。お前が見たがっていたリア・クランツの泣き顔も見れるんじゃないか?」
「…ッ…ちょっと待ってよ。僕はリア君の泣き顔が見たいなんて言ってないよ!…そりゃ泣き顔も可愛いとは思うけど、あえて見たいとは全然思わないし!」
カルラの言葉に、フィランドは自分のせいでリアが責められるなど、考えたくもないし、ルシェにしてもリアの泣き顔を見たいと思っていた等と、兄弟を前にして言われるなんてとんでもない事だ。
「……それが嫌ならその書類の山を今日中に片付ける事だな。」
それだけを言い残しカルラが生徒会室を出ようとドアを開けると、そこには苦虫を噛み潰したような顔をしたライナーと、その腕に抱かれキョトンとしているリアがいた。
「……リアッ…!」
「リア君とライナー君?!」
驚いている2人に対し、カルラは面白そうに珍しい客人を見ている。
「…凄いタイミングだな。」
「……別に狙って来た訳じゃない。リアが…フィランドが一人では寂しくて可哀想だと言うもんだからな。…邪魔はしないさ。様子を見に来ただけだ。…顔を見たらリアも納得するだろうしな。」
そう言うとライナーは慌てて駆け寄って来たフィランドにリアを渡してやる。
「…リア、俺に会いに来てくれたのか?サンキューな、リア。」
リアを大切に受け取りながらフィランドがリアの目を見ながらゆっくり話す。
「………リア、ふぃらん、ど、……おてつ…だい、する。」
!!
リアの言葉にフィランドとルマーシェは驚きの表情、ライナーはため息、カルラは傍観している。
「……ね?…ふぃら、んど。…リア、なに、すればい…い?」
リアはお手伝いする気満々で、フィランドをじっと見つめている。
「………ふぃ…らんど?……リア、…だめ……?」
何も言ってくれないフィランドに、リアの語尾は小さくなり、しょぼんと俯いてしまった。
一方のフィランドは、主であるリアに己の仕事を手伝わせるなどとんでもないため、どう断ろうか考えていたのだが……
…こんなリアを見て駄目などと言える人間がいるものか!
…いや人間でなくとも、そんな生き物いるはずない。
手早く考えをまとめたフィランドは、俯いてしまったリアの顔をそっと上向かせ、もう一度目を合わせる。
「本当に手伝ってくれるのか?凄く助かる。お願いできるか?」
するとたちまち可愛い笑顔が戻った素直なリアに、フィランドも優しく微笑むのだった。
そうして。
結論から言えば、リアはとても優秀なアシスタントだった。
事務処理において一番手間がかかるのが書類の振り分けやファイリング作業である。実際、フィランドのデスクも処理済みの書類が整理されないまま山積みになっていた。
リアにはそれらの書類の振り分けを頼んだのだ。
詳しく言うと、書類の右上にA~Dの文字が書いてあり、それを振り分ける作業だ。
少なく見積もっても1000枚はあるそれらを見た時、リアは楽しい遊びを見つけたような顔をして、おもむろに生徒会室の窓をあけると、可愛い声で歌うように言葉を放った。
…正しくは“言霊”を放った。
「…かぜ、の、せいれい、さん、…リア…と、あそぼ」
新しい日々 4 END
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