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第5章ー8 忘れ去られた国-2
リア達がカムールの町へ着いたのは、午後10時過ぎだった。
カルラの自宅までは更に辻馬車を拾って20分程走る事になるが、長い時間馬車に揺られて疲れてしまったリアは、ライナーの腕の中で熟睡している。
すよすよと無防備に眠るリアはとても愛らしく、それを見守る同行者達の口元も自然と緩む。
そうしてようやくヤギュー邸に到着した時、時刻は既に午後11時近くになっていた。
遅い時間にも関わらず、ヤギュー邸では事前に帰省の知らせを受けていたカルラの両親と妹、そして数人の使用人が出迎えてくれ、例に漏れず皆初めて見るような美しい兄弟に見とれ、(と言ってもリアは眠っているが)しばらくの間ぽかんとしていが、カルラが「とにかく中へ」と言ったことにより、何とか我を取り戻した。
流石に夜も遅いため、ライナーが簡単な挨拶を済ませた後は早々に客間に案内され、リアとエスティをベッドに寝かせたライナーもフィランドと今後について簡単に話し合うと就寝する。
シェラサードは念のため部屋全体へ結界を張ると、エスティより一回り大きい位のサイズに擬態し、定位置のリアの左隣へと寄り添うのだった。
翌朝。
知らないベッドで目覚めたリアだが、ライナーの腕にしっかりと抱かれており、背中にもいつもと同じシェラサードの温もりを感じていたため、パニックにはならなかった。
そうしてちょっと考えてカルラの家に来たのだと思い付くと、ライナーを起こしにかかる。
「ね…ライナー。リア、おきた…の。ライナー、も、おきて……?」
そう言うとリアは甘える様に、抱き込まれているライナーの胸にぐりぐりと頭を擦り付けた。
もちろん先に起きて寝たふりをしていたライナーは、可愛いリアの仕草に目を閉じたまま思わずクスリと笑う。
その声を聞いたリアは、ライナーが“うそんこ寝”をしているのに気付くと、起き上がってプクリと頬を膨らませる。
「……むぅ。…ライナー、うそんこ、ね…!」
昨夜リアを寝かせる前にライナーが着替えさせたパジャマは、カムールは高地にあって少し肌寒いと聞いて持参した、メイテ特製、羊のもこもこ着ぐるみパジャマだ。
只でさえ愛らしいリアが、もこもこ可愛らしい羊の着ぐるみを着て、ぷんぷんしている姿は、隣のベッドでこっそり様子を伺っていたフィランドを悶絶させる威力があった。
それに気付いたライナーはにやりと笑うと、フィランドを指さし、
「リア、あっちにもウソ寝をしている奴がいるぞ。ほーら、くすぐってやれっ!」
そう言ってリアを後ろから抱き上げ、ポーンとフィランドのベッドへ向かって投げた。
それに驚いたフィランドは慌てて飛び起き、リアをキャッチしたのだが、当のリアはポーンとされたのが面白かったのか、楽しそうに笑っている。
唖然としている中、今度はエスティが飛んできて、こちらは見事な着地を見せた。
…頭の上に。
………。
その後、ライナーの掛け声でリアとエスティに“くすぐりの刑”をされたフィランドは、朝から可愛いリアを満喫出来た喜びとともに、どっと疲れを感じるのだった。
忘れ去られた国-2 END
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