90 / 163
第5章ー9 忘れ去られた国-3
朝食も終わりいよいよ本題に入る為、リア達4人とカルラの父、テッペイ・ヤギューはヤギュー邸の応接室に揃っていた。
「……それでそこのリア君が、お前が導くと予言された“縁(ゆかり)の者”なのかな?」
三人掛けソファに、ライナーとフィランドの間に挟まれる形でちょこんと座ったリアを見てテッペイ・ヤギューがカルラに問う。
「…間違いないと思います。理論的に説明は出来ないのですが。…彼を見ていると不思議なイメージが浮かんでくるのです。…小さな緑の島に常時煙を上げている土色の大きな火山、木造で4本の足がついたような風変わりな家屋に不思議な装い…」
「……!!…そうか。今お前が述べた景色はまさしく、私が記憶している緋国そのもの。」
「…叔父上、話していただけますか?…“ヒコク”の事を」
フィランドの言葉にテッペイ・ヤギューはカルラと同じ漆黒の瞳を一度閉じると、意を決したように話し始めた。
「…お客人方は、ファルシオンが黒髪黒目だったのをご存知か?」
テッペイ・ヤギューが語ったのは伝説最大の謎とされている、ファルシオンの出自に関する事だった。
ファルシオンは、かつて世界に5つあったと言われる巨大大陸の1つ、フリーベル大陸唯一の国、“サイコク”(彩国)の皇子として生まれ育った。
サイコクの王族には不思議な力が宿っていた。
中でも、生まれた時から強い力を持っていたファルシオンは、大切に不自由なく育てられていたが、18歳の時、周囲の反対を押し切り魔王討伐の旅に出たことから、伝説が始まった。
ここから世界中で語られているファルシオン伝説に繋がるのだが、ヒコクには伝説に語られていない彼の“最期”が伝わっている。
魔王討伐の直前、ファルシオンは仲間を伴い一度サイコクに帰省し、その際、全国民にすぐにフリーベル大陸から避難するよう伝えたと言う。
肝心の“何故避難が必要だったのか?”という部分が残されていないのだが、事実、サイコクの国民は3つの種族に分かれてフリーベル大陸を発ち、それぞれ無人の小さな島に「緋国:ヒコク」「蒼国:ソウコク」「黄国:コウコク」を建国する事になった。
またファルシオンの指示により、それぞれの国の位置や彼に関する事については国外不出とし、分かれた3国同士の交流ですら、他国に情報が漏れる危険を回避するために禁じられた。
その後、フリーベル大陸は恐ろしい天災に襲われ、大陸ごと海へと姿を消したと伝えられている。
何故ファルシオンがそのような指示を出したのか、と言う理由については、巫女や長老たちなら知っているだろうが、一般の国民には知らされてはいないと言う。
「…私達ヒコクで生まれた者は普通であれば、外を知る事なくヒコクの中で生きて死ぬ。…私はその流れから外れた最初の人間でしょう。」
「……父上…。」
「…ヒコクの巫女は知っていたのだろう。…お前がこうして彼と縁のある者とめぐり合う事を。」
テッペイ・ヤギューはそこで一度言葉を切り、リアとライナーに視線を向けた。
「……だがお客人方。ここまで来ていただき誠に申し訳ないのだが、私は緋国の場所を知らないのだ。」
曰く、自分がこの国へ流れ着いたのは本当に奇跡的な事で、気を失っていたため、どこをどう流れてここへ来たのかはまるでわからず、ただ星の位置などから、大まかにこの場所はヒコクから北にあるという事だけは推定はできるのだとヤギュー氏は続けた。
「…ただ、巫女様から予言があった時、“導き手が現れた時に授ける様に”、とコレを授かった。時が来るまでは、私が肌身離さず持っている様に言われ今日まで預かって来たが、カルラ…お前に託そう。」
そう言ってヤギュー氏は大切に首にかけていた布袋を外し、それをカルラに差し出した。
その様子をじっと見ていたリアは、ふと視線を外して宙に浮かぶシェラを見た。
「……ね、しぇら。…せいれい、さん、…いる…?」
『…いいえ。ただ僅かに気配は感じます。思うに、本体は別の場所にあるのではないでしょうか。』
カルラとテッペイ・ヤギューには、リアの声に答える様に、宙に浮かんだ光が一瞬強くなったように見えただけであるが、それ以外の者にはしっかり声も聞こえている。
……精霊だと?
リアの言葉にどういう意味だと思いながら、カルラが受け取った布袋を取り敢えず開いてみると、中には美しい緑色の宝石がついたペンダントが入っていた。
「……その宝石は精霊が宿る石の欠片だそうだ。…召喚士であるお前なら、使い方を見つけられるのかも知れないな。…あとはカルラ。…お前に任せる。」
忘れ去られた国3 END
ともだちにシェアしよう!