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第5章ー12 忘れ去られた国-6

「……ちょっとソレを貸せ。」 暫くの沈黙の後、ライナーがペンダントを指す。 カルラは少し考えたが、素直にライナーへペンダントを渡した。 ライナーは受け取ったペンダントを両手で包み込むように持つと、己の魔力を…正しくはユグをそれに与えるように放出する。 すると…  !! 昨晩カルラが見たと同じようにペンダントが淡く光を放った。 『……マルシエの末裔か。一時とは言え、コレに力を与えるとは大したものだ。…だかコレはユーグの子でなくては力を取り戻せん。せいぜいこうやって短い間、俺の声を届けるのみだ。』 『…それで構いません。コレが何かを確かめたかっただけなので。』 『…なるほど。さすがは守護者だな。では次はユーグの子の力を感じる事が出来る事を期待していよう…』 そうして会話(心話)が途切れると同時に、光も消えた。 「……何だ、今のは?」 唯一、心話が聞こえていなかったカルラは、返されたペンダントを確認しながら訝し気な表情でライナーを見る。 「「………。」」 一方。 ライナーが呼び出されて暫くの後、その温もりが消えた事により目が覚めたリア。 まだぼんやりと眠そうだが、その寝起きで潤んだ瞳はきょろきょろとライナーを探している。 エスティはリアの頭の上辺りでまだ熟睡中だ。 『…主、起きたのですか?…イプピアーラの子はお隣の部屋で騎士の子達と少し難しいお話をしていますからね。…主はまだ眠っていても大丈夫ですよ。』 ライナーがどこにもいない事にリアが不安を感じる前に、隣で優しくリアを見守っていたペガサスがその所在を伝える。 「…しぇ、ら……。」 ほっとしたリアは、シェラの首元に甘えるように、ぎゅう、と抱き付き、そのふかふかの毛並に頬を埋めた。 ペガサスはその大きな翼を広げてリアを優しく包み込んだ。 しかし一度目が覚めてしまったリアはもう一度眠る事はなく、今日は一人で“お着替え”をしてみようと思い立ち、シェラから離れ寝台を降りた。 『…主?』 「……リア、…ひとりで、おきが…え、する、…の。」 そう言うと、リアは薄いブルーのネグリジェを脱いで、可愛いクマさんアップリケのパンツ1枚になる。 そうしていつもライナーがしているように、ワードローブを開けると頭を突っ込み、小さな可愛いお尻だけが出た状態で、服を物色し始めた。 この時点でリアには、制服に着替える、という選択肢は無いようだ。 その様子を微笑まし気に見ていたペガサスであるが、ハッと思い出したように、慌ててライナーのデスクに置いてある記録玉を作動させた。 『…私とした事が主の愛らしさに見とれ、うっかりしていました!……これは主の初めての “一人でお着替え” ではありませんか!…しっかり記録しておかなくては!』 あたふたと、上位聖獣たる威厳を置き忘れてきたかのようなペガサスを、ライナーやフィランドが見なかった事だけは双方にとって救いだったかも知れない。 リビングでは。 ライナーとカルラの2人が腹の探り合いの様な形となり、お互い無言の時間が続いていた。 そんな時、リアとライナーが使っている方の個室のドアが開いた。 内開きのドアからぴょこり、と小さな顔だけを出してライナーの居場所を確認したリアは、そのままライナーの所まで走って来た。 ……だが。 「「「……!!!」」…////」 パンツ一枚で走って来るリアの姿を見て、ライナーは慌てて立ち上がり即座にリアを抱き上げる。 そうしてギュッと抱き付いて来たリアに、ペガサスが持ってきたストールを肩から掛けてやる。 「……リア…そんな恰好で出てきたら風邪をひくだろう?」   ……そこかっ?!   …今注意する点はソコなのかっ?! …パンツ一枚で人前に出て来る事はどうなんだっ?!   ………まあ、可愛いが。 …いや、違うっ!! 2人の疑問は言葉にされること無く、リア達の会話は続く。 「…あのね、リア、……ひとり…で、おきがえ、しよう…と…おもったの。……でも、……およう、ふく。……いっぱい…。リア、……きめれ…なかった、の…。」 「…そう、か。」 「…ね、ライナー、…えらん、で……?」 一人で頑張ろうとした事を褒める様に、リアの米神や頬にキスを繰り返すライナーは、半ば硬直状態のフィランドとカルラに視線を向けた。 「……ちょっと待ってろ。リアを着替えさせて来る。」 そうして二人は自室に戻って行った。 忘れ去られた国-6 END

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