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第5章ー13 忘れ去られた国-7

「……フィランド。…先程私に常識がどうのと言っていたが、アレはアレでいいのか…?」 至極当然の疑問であるが。 「……。」 フィランドもまだその問いに答えられる程、彼らを理解できていなかったのである。 その後どうなったかと言えば。 結論から言うと、着替えて出て来たリアがペンダントに触れた途端、激しく発光した後、カルラが聞いた“声”が頭痛なしで聞こえるようになった。 その声曰く。 緋国はカルフィンの南ミグランド大陸との中間点付近にあり、船を調達するか、強力な力を持つ精霊か聖獣の協力が必要で、所要時間は船であれば5~7日位である。 また、緋国は封印されており、入るには導き手であるカルラの力が必要とのこと。 以上の情報から、学期内に行動するのは難しいと考えていたのだが、この件をライナー達から聞いた学園理事長の判断と協力の元、緋国へは次の週末に出発する事になった。 それまでに船の調達も含め、必要な手配は全て理事長であるムーガ・ハプソンが行うとの事だった。(…正確には、ムーガ・ハプソンから報告を受けたシェルバ・メルケルが力を貸すのだが。) またその際には万全を期して、マルシエからキリエも同行する事になっている。 そして出発当日。午前8時。 前日からリア達の部屋に泊まり、もちろん可愛いリアと一緒に眠ったキリエは、リアをメイテ新作 “リアおよそ行き服” に着替えさせていた。 所々に繊細なリボンとレースがあしらってあり、可愛い膝小僧が見える位のハーフ丈のパンツは落ち着いたエンジ色。 薄い水色のブラウスは襟の無い肩が広く開いたタイプで、胸元に大きなリボンが付いている。 アウターにざっくり編んだ真っ白のふわふわカーディガンを羽織らせたら完成だ。 「……ああ、とても可愛くてよく似合っているよ、リア。」 大きな手で優しくリアの頬包み込んで上向かせたキリエが、目を細めて言うのに、リアも嬉しそうに頬を染めてにこにこしている。 「……にぃ、と……おでかけ、…うれし…い///」 そのあまりの愛らしさに、キリエはリアをきゅう、と抱き締め、瞼に頬、そしてツンと可愛らしい鼻先と順にキスをしてゆき、甘く柔らかな唇には何度も啄むようなキスを落とした。 くすぐった気にはしゃぐリアを堪能した所で、リビングで打ち合わせをしていたライナーが出発を告げに戻って来た。 最初の目的地は、ルブランの町から定期馬車で3時間程の港町・ルフィンだ。 ルフィンで1泊して最終的な準備を整えた後、港からムーガ・ハプソンが手配した貸切り客船に乗り、緋国を目指す事になる。 ルブランでムーガ・ハプソンが用意していたのは、定期馬車の1等コパートメント席だった。前回乗ったコパートメントよりもゆったりとした作りで、座席の座り心地も良い。 そのため馬車に乗ってすぐ、キリエの膝の上で眠ってしまったリアだが、港が近付くにつれ聞こえて来る潮騒と風や水の精霊達の声に目を覚ました。 「おはよう、リア。よく眠れたか?」 目覚めて初めに見たのは大好きなキリエの優しい笑顔。 にこぉ、と微笑み返したリアはキリエの頬に、ちゅっ、とおはようのキスをした。 次いで隣に座っていたライナーの膝に移動したリアは、同じようにキスをしてライナーからもおでこにしてもらったら、今度は反対側に座っていたフィランドの元へ移動する。 フィランドは己の前にやって来たリアをひょい、と膝の上に横抱きに乗せて優しく頭を撫でてやると、こめかみに口付けた。 「おはよう、リア」 「ふぃらん、と。…おはよ、なの。」 小さな手でフィランドの少し硬い頬を挟んで可愛いキスをすると、リアはフィランドの胸元にぐりぐりと頭を付けて甘えの仕草だ。 ひとしきり満足したリアが顔をあげると、寝起きで甘えん坊になったリアを皆が微笑ましげに見ていた。 同じ様に僅かに口元を緩めていたカルラに気付いたリアは、細い顎に手を当てて少しだけ考えた後、意を決した様にカルラに手を伸ばした。 一方のカルラは。  …!!…これ、は。…わ、私に抱けということなのか? 大きな目で自分を見つめ、小さな手を伸ばしているリアと、保護者達の “早くしろ” という無言の圧力に、カルラは暑くも無いのに妙な汗が背中を流れるのを感じる。 もちろんカルラとて、愛らしく人形の様なリアを抱き上げる事が嫌な訳では無く、ただ子供の相手に慣れていない為、どうして良いのか分からないだけだ。 そんなカルラの葛藤のような物を従兄であるフィランドはよく理解していて、強硬手段に出た。 自らの膝にいたリアを、そのままひょい、とカルラの膝に乗せてしまったのだ。 こうして、ちょこんと座ったリアに愛らしい笑顔を向けられたカルラは陥落したのであった。 忘れ去られた国 7 END

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