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第5章ー15 忘れ去られた国-9
あの後カルラには、マルシエの事は伏せたまま、キリエ達兄弟が聖獣の血を引いている事と、フィランドが精霊の宿主になった事も伝え、その生態について、簡単に説明した。
また、先程カルラが言った通り、リアも自分達も精霊や聖獣と会話(心話)が出来る事も話した。カルラは驚愕していたが、「聞いても良い分だけ聞く」、というスタンスを守ろうとしているらしく、質問などは一切せず、聞いた事をそのまま受け止めるのみだった。
そうして30分ほど色々な話をして一休みした後、せっかくだから街を見てみようという事になり、(…とは言ってもこのメンバーなので、リアが外に出たそうにしていたから、というのが一番の理由だが。)今は全員でバザールを見物中だ。
リアは珍しくフィランドの腕の中だ。
子猫に擬態したエスティはライナーが肩に乗せている。
ちなみにキリエも大きな身長を、擬態したライナーと同じくらいの背丈に小さくし、サテュロス由来の膝まで伸ばされたゴージャスな金髪は腰くらいまでのブラウンヘアに、瞳も同様にブラウンに変えている。
それでも尚、頭1つ分飛び出た長身と、その突出した容姿は十分に目を惹くため、キリエに集まる視線は多い。
更にはその隣を歩くライナーを見て、その美しい一対に溜息をつくご婦人や商人達が続出している。
今リアを抱いているのがフィランドなのは、自分達の容姿を正しく理解しているキリエが、こうした状況になる事がわかっていたため、指示したのだ。
メイテのストールの力で人々に意識されにくくはなっているリアであるが、これだけ人の目を集めてしまう者に抱かれていれば効力は落ちてしまう。
そうすれば、せっかく楽しそうにしているリアに水を差してしまう事になる為、本当に仕方なくフィランドに任せたのだ。
もちろん、“別行動”という事だけは最初から選択肢にない。
何よりリアが寂しがるだろうし、自分達にしても、可愛いリアが頬をバラ色に染めて楽しんでいる姿を見ないわけにはいかない。
今とて、記録玉絶賛稼動中だ。
更には、人間達からは見えない様に姿を消しているが、今もちゃんと空中からリアを見守っているペガサスには、上からまた違った角度で撮ってもらうよう、別の記録玉を預けている。
さて、そのリアはと言えば、甘い香りを放ち子供達に大人気の飴細工のワゴンに並んでいた。
熟練の飴職人が作るのは、小鳥やウサギ、クマといった動物から、綺麗な花や可愛らしい果物まで様々だ。
魔法の様に作られるソレは、隣にあるカウンターで支払いが終わった子供達に次々と渡されていく。
飴細工のワゴン前に来た時、リアが目を輝かせたことにすぐに気付いたフィランドである。
「リアもいるか?」
「…ん///……エスティ、も、いい…?」
可愛いおねだりに、「もちろんだ」と優しく答えたフィランドは、そのまま2つ分の支払いを済ませ「2」と書かれた札をもらうと、飴を待ってワゴンをぐるりと囲うように出来ている長い列に並んだのだった。
飴は客からのリクエストに答える形で1個1個手作りの為、順番が来るまでに15分位はかかりそうだが、職人の手元を見ているだけでも楽しめるため、どの子供も皆時間は気にならないようだ。
リアも次々作られる飴細工に小さな歓声を何度もあげ、とても楽しそうにしている。
「…リアは何を作ってもらうんだ?」
フィランドの問いに、リアは「んー」と、頬に手を当てた可愛い仕草で一生懸命悩んでいたが、やがてふにゃん、と眉を下げると、フィランドの肩口にぐりぐりと頭を擦り付ける甘えの仕草をした後、そっと顔を上げた。
「……リア、きめれ、ない…。ふぃらん、ど、きめて……?」
上目づかいのお願いポーズは驚異的な破壊力で、それを向けられた当事者であるフィランドはもちろん、少しだけ離れた場所からリアの様子を微笑ましげに様子を見ていたマルシエ組をも襲った。
赤くなった頬がわかりにくい色黒で良かった…と思ったのはフィランドだけの秘密だ。
そうして、何とか自分を律し、リアに向き直ったフィランドは、
「…ならリアの分は俺が決めてやるから、エスティの分をリアが決めてやれるか…?」
「はぁい…///…リア、エスティの、きめる。」
フィランドの楽しそうな提案に、リアは嬉しそうにお返事をしたのだった。
そうして順番が回って来たリアがエスティの為にリクエストしたのは、エスティが大好きな葡萄の形だ。
紫と緑の2房の葡萄がくっついた可愛らしい飴細工が出来上がると、思わず歓声をあげてはしゃいだリアのストールがずれてしまい、周囲の子供達や付き添いの大人、そして目の前にいる飴職人がその愛らしさに息を呑む。
慌ててストールを掛け直したフィランドだが、手遅れだ。
一瞬でシン、としてしまった周囲にリアはキョトンとしている。
そんな中、少し離れた場所にキリエとライナーとエスティを見つけると、嬉しそうにその名を呼んだ。
リアに呼ばれて無視など出来るはずも無く、二人は苦笑いで、エスティは嬉しそうに、時が止まったようになっている飴細工店へやって来た。
リアが嬉しそうにエスティに戦利品を渡している中、フィランドは取り敢えずリアの分の注文をするため、未だに呆けている職人声をかけるのだった。
忘れ去られた国9 END
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